第3話○探知箱○
彼は、時のメティティの話の後、僕に「同値相反」という言葉の意味が理解できるかと聞いてきた。
メティティというものは、光闇、表裏が、同じ値の力で、引っ張りあっているのだという。数学か物理の理解の領域だった。
だから、メティティは、「パワー」なのだということは理解できた。
パワーがあるということは、仕事が発生するということだ。
「君、流石だね」
彼は、頷いて、同意を示してくれた。
「つまり、君の存在感が薄まっているのは、君の反対側にいるメティティが強く仕事をしているということじゃないか?」
と言った。
正反対の属性を持つ相手は、仲間ではないが敵でもないということらしい。
「ツインメットというんだよ。片方が失われると、バランスが崩れやすくなる。」
ツインメット?対友?
僕は、知らない言葉ばかりの説明を、必死で取り込んだ。
「慌てないでよ。私は君と毎日顔を会わせているから、影響が出るのは、最後だと思う。その間に、存在感を取り戻す作戦を立てよう。」
彼の言葉に、僕は、とりすがるような顔をしていたのではないだろうか。
「助けてくれるのか?」
彼に確認していた。
彼は、初めて友達になったかのように頼りになる笑顔を見せてくれた。
「もちろんさ。乗り掛かった船だろ。」
彼は、図書館にいる「天宮」という職員が、時のメティティの一族の子孫だと教えてくれた。メティティ初心者の僕が、トラブルに巻き込まれているなら、自分のメティティを自覚する、強めの刺激が必要だと言うのだ。
授業中も、指名もされなくなって、僕は、自分が透明人間になってしまうのではないかという焦りで、勉強も手につかなかった。
そこで、こっそり教室を抜け出し、図書館に駆け込んだのだ。
中には、幾人かの研究生と呼ばれる、授業の出席免除を受けた生徒たちの姿があった。
書棚に本を返すために、脚立に跨がっていた老人に、僕は、声をかけた。
「なるほど、影が薄くなっているのは、ツインメットのせいだと思うわけだな?」
小さなガラスの老眼鏡を拭きながら、老人天宮は、僕の言い分を繰り返した。
「そうなんだ。僕は、このまま消えてしまうかもしれない。」
僕の顔を、目を細めて覗きこんだ天宮は頷いた。
「確かに、憑き物が落ちたような顔をしておるワイ」
天宮は、「それで」と言葉を次いだ。
「それで、お前さんは、どうすればいいと思っているんだね?」
僕は、反対側を引っ張っているツインメットから力を取り戻せばいいと応じた。
「じゃあ、そうすればいいじゃないか。」
天宮は、そっけなくそう言った。
「そうしたいんだ。天宮さん、僕、どこのだれに会えばいいの?」
僕の台詞は、強力で、魔法なんて必要ないくらいの力を持っていた。
その場の空気が、時間を巻き込んで凍るくらいのしらけた一瞬だ。
「なんじゃあ、お前さんは、自分のツインメットを知らんのか!」
老人天宮は、心底驚いた、といった表情で、僕をまじまじと眺めた。
「よくもまぁ、今まで無事じゃったもんじゃね。」
感心しきりに、感慨深げに呟きながら、彼は彼の仕事机の引き出しから、小さな手のひらに乗るサイズの箱を手渡してくれた。
「これは、ツインメット探知箱という。1日1回覗くと、ツインメットへのヒントが貰える。箱が最後のヒントだと言ったら、そのヒントを解いたら、必ず儂に返しに来なさい。」
僕は、藁をもつかむような勢いだったに違いない。箱を握って、図書館を後にした。
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