第4話○エルダー○

僕は、中庭のベンチに腰掛け、改めて箱を眺め回した。

細かい彫り物。木の箱だった。

板を張り合わせたのではなく、くりぬいてあって、蓋は蝶番で繋がっていた。唐草と花の模様。

好奇心に背中を押されて、僕は、箱開けた。

透明なガラスの底板の下に、何と、この箱と全く同じ箱に鎖で繋がれた天宮老人が居た。

箱の底は、くりぬいてあったのだから、当然透明ではない。どういうからくりか分からなかったが、持っている箱と全く同じ姿の箱に、天宮老人が、繋がっているということは、受け入れるしかなかった。鎖は、光を老人から吸い上げている。

(これは一体、何なんだ?)

僕は、大きく動揺していた。

そのガラスの底板の上に。折り畳まれた紙を見つけた。

これが、1日1回のヒントなのだと思った。

破かないよう、慎重に開いていく。


小さな文字が、書いてある

ツインメットの捜し方

あなたのツインメットは、あなたの属性で決められています。あなたが光の属性の時、ツインメットは闇社会にいて、あなたが表側の属性をもっていれば、ツインメットは裏社会にいます。あなたが裏社会の属性なら、ツインメットは、一般社会にいるのです。


なるほど。僕は、頷いた。

…って。僕の、属性って、そもそも何なんだ?


改めて、僕は、自分の暮らす社会について、何も知らないことに気がついた。何も知らないのに、好奇心で胸を一杯にして暮らせていたのだ。ずいぶんと呑気なことだったと思っていた。


夕方、寮に戻って、ソファーに寝転び、箱をもて余していると、彼が、帰って来た。

「どう?図書館に行ってみた?」

鞄を置いて、上着を脱いで、ポールにかけていた彼は、箱を見て、驚いた。

「君、この箱、探知箱じゃないか。一体どうやって手にしたんだい?」

「なんだ、珍しいものなのか?」

興奮した彼を見て、僕は天宮から受け取った箱が、重要なものであることを知った。

彼は、自分の引き出しから、ノートを取り出した。付箋の1つをガイドにページを開いた。

いくつもの箱の絵があり、その中に、天宮の箱と同じ柄の物が、描かれていた。

「これ、全部探知箱なのか?」

「そうだよ。天宮はやっぱりエルダーだったんだね。ツインメットを探すには、エルダーの歳月を積んだ人に相談しなければならない。エルダーは、その人のツインメットが見つかるまで、命を懸けて探索に協力しなければならない。その約束の媒介をするのが、探知箱なんだよ。」

まてまて待て。置いていかれそうな僕は、慌てて、箱を押さえた。

「エルダーって何?しなければいけないって、どういうこと?」

彼は、僕の顔を見て、初心者だということを思い出してくれた。

「エルダーっていうのは、時のメティティの子孫だよ。そのなかでも、時のメティティの力を継いだ12人だけが、そう呼ばれてもいいんだ。約束は、ユエと呼ばれていて、このノートは、私の母が確かめることのできたユエの情報の覚書ノートだよ。箱の数は、10個で、まだ、全部見つけた訳じゃないんだ。私は、天宮が、エルダーの知り合いだと思っていたんだよ。まさか、エルダーその人だったなんて。感動するなぁ。」


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