第5話○境界線○

彼は、天宮の探知箱の中身を覗きこんだ。

「本当に、彼と繋がっているんだね。この箱。」関心だけで食い入るように見ている。


「ヒントは、これだよ。」

僕は、紙片を彼に見せた。

「まぁ、1枚目だからね。当たり障りないんだろうな。でも…。」

「なんだい、何か気づいたのかい?」

「わざわざ、社会が違うと書いたり、ガラスの底板を構造して別の空間を映したりしているなら、それがヒントなんだよな、きっと。」

彼は、そういうと、自分の発見をノートに追記し始めた。


「君は、自分のツインメットを知っているの?」

僕は、ふと何気なく、口にしていた。

彼の嬉々とした様子が、一瞬で固まったのが、背中越しに分かった。

余計なことを言ってしまったらしい。


「知ってるよ。私の家は、こういうノートを自分で作るくらい、メティティの情報を必要としている家だからね。メティティの力の危険も利権も分かったことを共有する。」


そういう彼は、暗い面持ちだった。


「どういうこと?」


「まぁ、段々分かればいいんじゃないか?私のことは、後で教えるよ。じゃ、頑張って。」


彼は、自分のメティティについて、明らかに、積極的ではない反応をした。

気まずい空気が、共有スペースに充満する。

僕は、自分のメティティを取り戻すまで、ずっと、この空気のなかで、幽霊化していなければならないのだろうか。重いなぁ。


次の日。午後。僕は探知箱を開けた。

紙を取り出したついでに目にはいる天宮の様子を見て、ゾッとした。命がけの約束って、こういうことなのか?そこには、げっそりくたびれた姿の天宮がいた。


ヤバい。ヤバいぞ。

人探しごときに、人の命を懸けて、

僕は一体何をやっているんだ。

急いで、目的の人物を探し当てないと、天宮が、死んでしまう!


2回目のヒントを、震える指先で開く。


ツインメットの探し方

この街の表と裏の境界線にルーカーがいる


はい、出た~。

僕は、焦っていた。ヤバいぞ。

なんだ、ルーカーって。

この調子で弄ばれたら、天宮が死んじまうぞ。僕が人殺しになってしまうだろ!


ヤバいぞ。

じっとりと嫌な汗が、背中をつたう。

落ち着けよ。自分に言い聞かす。


箱もヒントなんだよな。

僕は、居てもたってもいられなくて、学校を抜け出した。存在感も薄まっている。抜け出したことも気づかれないだろう。


文教エリアの隣の産業振興エリアを走り回った。店を見つけては、看板と中の様子を確認する。それらしい店など、発見できなかった。


いや。それらしいって、なんだ?

僕は、何か、大切なことを見落としているような気がした。

この街の、表と裏の境界線。

神社の鳥居に象徴される、境界線。

探知箱は、ガラスの底板だったよな。


僕は、裏路地と大通りの境に注意して、店を当たり直してみた。

ほら。あった。bar「border」の看板。

ガラスだ。



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