第10話○同値相反○
ーーメティティの作用は、同じ量が真逆のベクトルを確認できることで、ツインメットの指定を可能にします。この事を同値相反といいます。男女であることは、メティティの相反ではなく、身体機能の問題なので、メティティがツインメットでも性別まで対角であるとは限りません。ーー
(作用と反作用みたいだな。)
僕は、メティティが、それまでの世界で、原理とか、摂理とか、倫理とか、人道と呼ばれていたものだとわかってきた。
つまり、アニマ(宗教よりの哲学用語)の事だ。
何で、メティティという名前になったんだろうかと、疑問に思った。
animal
metiytiy
すぐに解けた。頭に、名前の符丁があったから。メティティは、これまでの宗教や哲学にちゃんと、繋がっていた。
道を繋ぐために名前が変わったなら
らくだ→ステテコ→レギンス
みたいなものか。
ファッション雑誌で読んだ事がある
新しいもの、が大事なんだとか。
メティティは、見えないものを仮にそう呼ぶことにした、という音頭で、どんな名前にも変化するに違いない。
信仰を持つ人が言うように、神には特定の名前などない。我々へ人生で、全てのものの名を借りて姿を表し導きを行う、というやつだ。
エジプトの歴史に出てきそうな音に「戻る」あたり、多様性と開かれた未来が何だったのか、まるで無駄に思える。
メビウスの輪だな。
同じところを歩き続けている。
僕は、教室のガラスから、青くて高い空を見た。雲は届きそうにも見えるのに、実際は、とてつもなく、遠くにあるし。
放課後、僕は、着替えて、ウォームアップをしていた。少し先に、選考会がある。
少しでも、いい記録を出したかった。
いい記録を出せば、恵まれた環境を過ごすことができる。
「よぉ!無理すんなよ」
選考会レギュラーの松南が、ちょっと手をあげて、声をかけていった。
よし。
僕は、皆が揃うまで、体を暖めるために軽いステップで、トラックを走り出した。
うん。体は大丈夫だ。誰かが気にしてくれなくても、走れば気分が上がる。
自分の進む力で風が起こる。
汗のお陰で、涼しく感じる。
松南が、声をかけてくれた。
まだ、その他大勢レベルでも、幽霊ではない。
半ズボンの、更に半分サイズの丈の短パンがスピードを産み出す、無駄な筋肉のない足を大量に流していくトラックコンベア。
僕は2キロを走ったところで、上がって
濡れタオルで、体を拭き、水分を補給していた。
「調子はどうだ?」
松南だった。僕は、にやりと思わせ振りに笑んだだろう。走る姿を彼も見たはずだった。
だから、言いに来たに違いない。
「上がってますよ。」
僕は、今日のトライアルは、行ける気がしていた。
監督がやって来て、点呼をとったあと、トライアルが始まった。ムキにならないように、時間をずらしてスタートしていく。今回は、これまでの成績と合わせて、8位以内で、補欠入り確定、上位三名が、エントリー確定だ。最終的に、残り2枠を5人で取り合う。
学校の敷地内に、山道がある。
皆は裏山と呼ぶが、山頂の神社にある祠には、観光客も訪れる、有名な小山だ。春になれば桜が、夏には躑躅が山を彩る。
全長30キロ。90分。
3つのルートを時間をずらして、部員40人が、参加する。
僕は、今回は、デルタコースだった。
オメガコースの部員の背中をとらえた。
追い越そうとしなくても、次の岐路を彼は左に、僕は右に曲がる。トライアルは、スタミナ配分を戦略にしない。スタミナと瞬発力と持久性を記録される。
でこぼこで、傾斜のあるコースなのもそのせいだ。
彼は、まもなく左に消えた。
僕は、右の分岐に足を運ぶ。
せっせとゴールを目指す。
たどり着くと、ヘトヘトになる。
「おかえりヾ(*´∇`)ノ」
女子の花形、真山がタオルを放って寄越した。
「今日はなかなかいいタイムだったんじゃない?」
「え!そうですか?」
僕は、思わず食いついた。いつもなら気になる時間が、ツインメット探しで疲れていたせいなのか、全く気にならなくて、まるで夢の中を走っているような気がしていたからだ。
それに、教室でシカトされていて、松南にしろ真山にしろ、声をかけてもらえることが嬉しかったのかもしれない。
「どうした?急に丁寧語なんて使い出しちゃって。いよいよ私の凄さに平伏したか?」
ふざけるように胸を張って、彼女は、高笑いしながら、去っていった。
(いや、僕の速さの事は?)
僕は、置いていかれた感じを覚えながら、
汗をぬぐった。
その日、帰宅して、部活では、ちゃんと話しかけてもらえた、と言ってみた。
「へぇ。良かったね。メティティの導きで、探知箱を知るために起きた現象かもしれないじゃないか。」
ルームメイトは、ニヤニヤとからかうようにそう言った。
「メティティって、そんな超常現象みたいなものじゃないんだろ?」
僕が、問い返すと、彼は、我が意を得たり、という顔をした。
「大分分かってきたじゃないか。何か理由はあるのだと思うよ。横の繋がりに理由が必要とか。私との関係もそうだろう?わたしは君を忘れることはないよ?」
この返事を聞いて、僕は本当だと思った。シカトウェーブは、教室のクラスメイトだけな気がする。
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