僕らの世界の関わり(仮)

ひかりは以万

第1話○存在感○

確かに、僕は、クラスの中で、そんなに目立つ存在ではなかった。かといって、陰キャラでもない。友達は、それなりに居るし、苛めに関わっていることもなかった。


自分の事を、普通だと思っていた。


それが突然(と僕が感じた)皆からシカトされるようになった。

おはよう、と挨拶して教室に入っても、昨日までは当たり前のようにあった返事がもらえなくなった。


授業中、1度は指名されていたのに、全くそれがなくなった。学食の列を飛ばされた。

体育の授業では、点呼も飛ばされた。


まるで、幽霊になったかのような気分だった。


僕の学校は、全寮制だ。

二人か三人で、1つの部屋を使う。

学校で、急に幽霊になった僕は、ルームメイトに、その事を打ち明けてみた。

違和感に気づいてから、かれこれ1週間程が経っていた。


ルームメイトは、僕の相談に、時折相槌をしながら、根気よく話を聞いてくれた。


「それは、きっと、メティティの異変だね」

ルームメイトは、驚いたり気味悪がったりせず、冷静に、そう言った。


きっと僕が、要領を得ない表情でもしていたのだろう。気まずい一瞬があった。


「君、メティティを知らないの?」

ルームメイトは、おずおずと僕に尋ね返した。


皆は、メティティなんて、聞いたことがあるだろうか。僕は、聞いたことがなかった。


僕らは、三人入れる部屋を二人で使っていた。互いを無視できるはずもなく、ルームメイトは、少し考え込んでいた。

僕は、安心していた。幽霊のように、誰にも気づかれずに消えることは、避けられそうだと思ったからだ。


「君、どうして、メティティの事を知らないの?」


ルームメイト(彼)は、再度、僕に尋ねてきた。僕は、彼が何故メティティなんてものを知っているのかを聞きたかった。


「普通ならね、小等部の頃に、親から話を聞いているものだし、絵本もあるんだよ?」


彼は、僕に向かってそう言った。そういえば、一緒に過ごしているのに、互いの事を話すのは、初めてかもしれない。


僕は、立ち上がって、キッチンへ行き、お茶の支度をして、戻ってきた。座る前に、告げるべき事を告げた。


「僕ね、親がいないんだ」


そう。思い出には、父も母も居たのだが。

今は、どちらもいないから、全寮制のこの学校にいるとも言えた。


そう言いながら、僕はお茶を淹れていた。

何もなく、そういうことを口に出来るほど、割りきっているわけでもなかった。


彼は、思いの外、気遣える性格だったようで、僕のいれたお茶を喜んで、


「そうか。知らなかったとはいえ、思わぬことを言わせて悪かったね。じゃあ、私で良ければ、メティティの事を話してあげようか?」


と申し出てくれた。


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