第12話○時計職人○

天宮の説明では、座標限定を災いと言い、

同窓生は、まるで命のように説明した。

一体どう言うことだろう。


僕は、モヤモヤした気持ちで、授業に戻った。


工作の授業は、他のクラスと合同で行う、選択型の科目だった。男女の区別もない。


僕は、休み時間のことを気にしながらも、工作室におとなしく座っている。


多くの男子が、花咲宮を気にしているのが分かる。なんというか。本人に自覚あるのか、彼女は美人だ。花のように。

どうして工作なんて選択したのか。

演劇や音楽でも選べばいいのに、と僕は思った。


今回は、郵便受けを工作する。

みんなに、同じ設計図が配られた。

あちこちに空欄がある。

形とサイズは変えられないが、材質と加工、柄を自分で工夫するのだ。


「締め切りは、14日後です。じゃあ、特別な道具を使う人は、この時間に空欄を埋めて、道具の予約をしてね。」

先生の合図で、皆の椅子が、ガタガタとなり始めた。


木を素材にすると、塗装や焼き付けの加工が選べるし、金属を素材に選ぶとバーナーや溶接の加工が必要になる。

道具のシフトの申し込みをする列に並ぶと、僕の前に、偶然に花咲宮がいたのだ。

「あら、偶然ね。あなた、変わったメティティを持っているのね。」

彼女は、すれ違い様、何故か立ち止まって、そう言った。

「名前は?」

「能塚」

僕の断片的な返事を、彼女は頷いて受け止めた。

「能塚君、じゃあ、またね。」

僕は、クラスメイトに小突かれた。

アメリカを舞台にしたスクールドラマにありがちな、「お前、なかなかやるじゃん」のような、全く不自然な「ノリ」だ。

しかし僕もまた、「そんなんじゃないから」と、台本のような台詞を返すことしかできなかった。


自分にがっかりだった。


交流スキルがないから、影が薄くなったのかもしれないな。

そんな風にも振り返ったのである。

せっかく、人気の彼女が話しかけてくれたのに、うまく楽しませたりすることもできない。


でも、僕は、後日

もっと驚くことになった。


探知箱のヒントは、組み立てだったから、

この授業の中につかまねばならない答えがあることは、予想できた。

それを見つけなければならない僕の気持ちは、いつもの授業とは、全く違うものだったのだ。


いつもの情景が、気持ちひとつで、全く違うものになる。

この間までの授業風景と、今日の授業の風景は、同じ場所で同じことをしているのに、何もかもが違うのだ。


あ。

同じ設計図、同じ材料が、配分されるこの授業。

同じ場所、同じ内容の授業が繰り返されるのに、何もかもが違う、この感覚。

組み立てなければ、どう仕上がるか、わからない。

そういうことかな?


バーナーのシフト希望に、

花咲宮の名前があった。

ペイントにも。

つまり、僕と被ってる。


僕は希望票に名前を書いて、列を離れた。


もう一度、配られたキットの説明を読んだ。









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