7 音声案内
車に乗り込み会社に向かって出発する。
いつもカーナビのテレビをつけっぱなしで運転している。
(・・・との交渉は正念場を迎えています。続きまして埼玉県で発生した70名を超える集団食中毒の状況・・・)
フラッシュバックは続いている。
かなりつらい。
昨日の今日のことであるし時間がたてば忘れていくんだろうか。
彼女はどこに入院しているんだろう。
どうして飛び降りたんだろう。
脳みその先から上の方に引っ張られるような感覚がある。
(・・・ほとんどの方が6日から7日後に発熱後に症状が落ち着いて・・・)
駄目だ、彼女のことばかり考えていては。
思考を別の場所に、わざと違うことを考えようとしてみた。
(・・・死者はでておりません。原因究明に・・・)
山上は今日は出てきているだろうか。
さすがに風邪で1週間は休みすぎだ、どんな理由があるんだろう。
乾さん、川前さんにお礼をしたい。
あのチラシの連絡先に電話してみようか。
お礼を言うのとあの事故のことを何か聞くことができるかもしれない。
いつもの通勤路の自衛隊駐屯地入口に面する道路が通行禁止になっていた。
隊員が他の道へと誘導している。
ヘリの離着陸と相まって緊張感がある。
走る車の中から窓を開け金網に囲まれた駐屯地を横目で見てみるが外側からはいつもと変わりはない。
変わりがあったとしても俺に何ができるわけでもないが。
こういう時は大袈裟に考えてしまうものだろう。
しかし交通誘導を自衛隊員が行うものなのだろうか。
ヘリコプターのプロペラの音が聞こえる。
これから飛び立つのだろう。
隊員の誘導に従い右折した所で駐屯地から異様に大きなサイレンが鳴り響いた。
車を路肩に停め、音が鳴っている方向を見る。
続けて若い男性の声で放送がはじまった。
[あ、こ・・ちら自衛ダイエイタイちゅー、非常じた、いはせい!あ・・ちかく、き、近隣のみな、みあさ、避難、避難してくださあ!避難す、避難する場所、あそこ!あそこにいけ!いやあああったああ!おれや【ガボン】
何かをマイクに叩きつけた様な音を最後に彼の声は途絶え、続けて女性の声が流れ出した。
[自衛隊駐屯地よりご連絡いたします。現在異常はありません。現在異常はありません。先ほど不具合が起き御聞き苦しい音声が流れましたが、異常はありません。再度申し上げます、異常はありません。放送を終わりまっ、グッ]
数秒なにが起きてるのか把握できず固まったが、お笑い番組のコントを聞いているようで少し笑ってしまった。誘導している隊員も基地の方を見て苦笑いしている。
3分ほど停車し再度何か放送があるか待ってみたが特にない。
何が起きたか気になったがこれ以上は会社に遅刻してしまう。
再度車を出発させようとした所、上空にヘリコプターが見えた。
これから飛び立とうとしている様だが挙動がおかしい、ような気がする。
基地上空で左右に大きく旋回した後、前に傾き地面へ向かってスピードを上げる。
着陸のアプローチにしてはスピードがありすぎる。
このままだと駐屯地の建物に突っ込む。
そんな馬鹿な、落ちるわけがない。
ヘリは湖に大きな石を投げ込んだような音を出し建物の最上階に突っ込んだ。
もう動けない君たちは 内藤八雲 @yakumo-naito
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。もう動けない君たちはの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます