5 家族

 自宅に到着し玄関を開けると甥っ子2人が走って出迎えに来てくれた。

「おかえりー!」「おかえりー!」

「ただいまー」

 ふたりを片手一人ずつ持ち上げる。

 5歳の瑛人えいとと3歳の三洋みひろだ。

「おみやげは?」

「今日は無いよ」

 苦笑する。

「なーんだ」「なーんだ」

 2人そろって繰り返す。

 リビングに2人を連れていき挨拶をする。

「ただいま」

「おかえり」「おかえりなさい」

 父の昭治と母の美津子が返事を返してくれる。

 俺は両親と同居していて、兄の文知ふみとも、義姉の文香ふみかそれに甥っ子が隣家に住んでいる。

 兄夫婦がそろって遅くなる日は今日の様に2人が預けられることになる。


「枡、どうしたの?顔色悪いし、服が汚れてるけど…。」

 母が心配したように訊ねる。

 彼女の体液が所々に付着している。

「なんだこれ?気が付かなかった。

 今日は暑かったし、ちょっと疲れただけだよ。」

 なるべく明るく答える。余計な心配をかけたくない。


 2階の自分の部屋で家着に着替えシャツとスーツパンツはゴミ袋に入れ処分する。

 もったいないがさすがにまた着る気にはなれない。

 そしてシャワーを浴び体の汗や汚れを流した。

 再度リビングに戻るといつものように食事を用意してくれていた。

 皆はもう済ませたようだ。

 正直食欲がわかない。

 結構頑張って食べたが半分以上残してしまった。


 甥っ子は食事が終わるのをそわそわしながら待っている。

 いつも食事を終えると本を読んだりTVゲームをして遊ぶ。

 今日は本を読んで聞かせた。

 内容を俺がアドリブで違う物語にするのが楽しいらしい。

 甥っ子との時間は気持ちが落ち着く。

 さっきの事故なんか忘れてしまえる。


 義姉の文香さんの車の音がする。

 仕事から帰ってきたようだ。

 車から降りると小走りでこちらの家に走ってくる。

「お世話になりましたー、ありがとうございます!」

 文香さんはいつも明るい。

 甥っ子たちはダッシュで文香さんにぶつかっていく。

 いつものこのやり取りが好きだ。


 3人が帰ってもう寝てしまおうと立ち上がろうとすると

「さっきニュースで見たんだけど、市内で飛び降りが沢山あったんだって。」

 母が話しかけてきた。

「へえ、そうなんだ。沢山?」

「今日だけで8件あって1件は枡の会社のあるところで。なんか見たりした?」

「いや、ないよ。」

 別に隠す必要もないがとぼけてみた。

 市内だけで飛び降り自殺が1日8件…。

 俺が住んでいるこの市は人口20万人ほどの小さくはないが大きくもない場所だ。

「8件って多いね。」

「そうねえ。でも全員生きてるみたいね、それはよかったわ。」

 

 生きてる?

 あの状態で?

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