不足は友と補い合って。

 この作品を一言で表すと「中国語にまつわる謎解き」ではないかな、と思います。

「バイリンガル」という言葉を、皆さんはご存知だと思います。
「二か国語を自由に話すこと」という意味がありますが、「バイリンガル」にも種類があり、「パッシブバイリンガル」や「ダブルリミテッドバイリンガル」があります。意味ですが、前者は「聞いて理解できるけど話せない」、後者は「二か国語を話すことができてもどちらも不自由」を指します。
 二つの国にルーツを持っていると、つい両方の言葉を自由に話せると思いがちですが、実は必ずしもそうであるとは限りません。二つの国の言葉を知っているが故の不自由さもあるのです。

 主人公の浩然《ハオラン》は「パッシブバイリンガル」に当てはまるのですが、この「言葉の習得の不完全さ」が意外にもお話の中を大きく動かしていきます。

 冒頭にも書きました通り、この作品には言語のミステリーが散りばめられています。
 浩然は、謎解きをするには中国語の能力が不足しているかもしれませんが、彼を始めほかの登場人物たちの「不足する」部分を補う人たちが周囲にいますし、浩然自身も他者の不足しているものを支えています。それにより、中国語にまつわる謎が解けていくのがこのお話であり特徴であり、魅力的なところだと思います。

 言語に興味がある方はもちろん楽しめると思いますが、登場人物たちも魅力的なので、そこに焦点を当てて読むのも面白いでしょう。
 浩然の周りにいる友人たちがとてもいい人たちばかりで、彼らのやり取りを見ているだけでも心なごみますし、きっと読んだ方も、自分自身の「不足しているな」と思ってしまっている部分を、大切にしていいのだなと思えるような気がします。

 言葉に纏わるミステリー。
 とても面白いので、興味があれば是非読んでみてください。

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