死は、美しかったか。

〈それを指差して「ちょうちょ」と言ったわたしは、きっと今のサイトウと同じだ。今だって、見知らぬ人の死の結果を見て、綺麗だと思った。夜空に咲いて、はらはらと消えてゆく光の粒は、何もかもお構いなしにどうしようもなく綺麗だ。〉

 恐れれば恐れるほどに、近付きたくなる。そんな謎めいた美しさ、というものがある。多くのひとにとって、その最たるもののひとつに、死はあるのではないだろうか。幼い頃、ふいに漠然といつかおとずれるだろう死への恐怖が萌して泣いたことがある。分からないから、怖い。怖いから、知りたい。だけど誰も知らないから教えてはくれない。自分でも考えても分からない。分からないから、怖い。堂々巡りする感情は、すでに死に魅入られてしまっているのかもしれない。

 本作には、現代日本の形を踏襲したらしき世界に差し込まれたような非日常がある。人は死ぬと打ち上げ花火になる。物語は、〈わたし〉が死を理解できていなかった頃の幼い記憶からはじまる。死んで打ち上げ花火になった小さな蝶の形の花火を見たかつての記憶。〈わたし〉はその花火を綺麗だ、と思いながらも、その感情を隠していたけれど、サイトウがためらいとともに言った「綺麗だと思うんだ」という言葉に自身の感情を重ね合わせる。

 死への憧憬に対するほのかな罪の意識、秘めていた死への感情の共有することへの安堵、誰もが知っていて、誰もが知らない、そんな普遍的なテーマに貫かれた物語は、一条の幻想を混ぜながらも、どこまでも淡々としている。あぁ素晴らしい作品に出会ったなぁ、静かな余韻とともに、読後、そんな気持ちに満たされました。

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