第2話 友と狐と貧困と
「……散歩していたらたどり着いた神社、黒い狐の面の男に108日後の災厄をうち滅ぼせとの神託、神社が消えた、ねぇ」
私は今朝起きた異常事態に混乱する頭を整理する為、友人Kの家に上がり込んでにありのまま全てを話した。精神病院に連れていかれないか心配ではあったが、彼はこの地域の狐信仰について調べている同期の大学生だ。専門家の知識は欲しい
Kは付箋だらけのメモ帳とカレンダーを手に取ってなにやら鉛筆を走らせる
「君のことだ、冗談ではないんだろう。だから本当の事だという前提の元で話を進めるぞ」
張り詰めた空気に思わず正座をしてしまう
「ぼくが今まで調べていた資料と照らし合わせて神託をしてきた存在の正体なら推測できる」
「ありがとう、教えてくれ」
「君が出会ったのはおそらく
「狐? 良く分からないが化かされたって話か?」
「違う、むしろ神託は願いをかなえる上で正確な情報だと思う」
ふーっと、息をつきKは本棚からいくつかの本を取り出して見せてきた
「黒狐から話そう。まあ
友人の講義に聞き入っていた
「あれ、でも霊獣なら神様じゃあないよな。天狐は神様なのかい?」
「狐が千年の修行の末、未来を見れるほどの千里眼など神に等しい力を持ち天狐へ成るらしい。天狐が神かは意見は分かれるだろうが、この地域では古くから黒狐信仰があったから神格は得ていてもおかしくない。日本じゃ人が手を合わせれば神に成れるからな」
「黒狐はここで天狐になっていて千里眼で未来を見たから祈った私に神託をくれたと」
「そんなとこだと思う。しかし――神託はどういう意味だ?」
話はそこで行き詰まり、気分転換にテレビをつける。そしてノストラダムスの大予言が映る。今4月、108日後は7月、恐怖の大王が来るのも7月
「なぁ、これって」
Kは顔をしかませる
「あぁ、うん」
私は頭を抱えた。たった一人のただ一年、それを楽しく過ごしてもらうには世界を救わないといけないらしい
「……腹ごしらえしないか? 私が奢るよ」
現実逃避がしたかった。一般大学生が背負っていい神託ではない
「ハンバーグステーキ定食 ナポリタンとアイス、食後のコーヒーもつけてもらうぞ」
「遠慮無しにも程があるだろ……。奢るけどさ」
「これから一緒に恐怖の大王うち滅ぼすんだから、後悔無いようしっかり食べるさ」
「付き合ってくれるのか? 私個人の見ず知らずの子供の為の神託だぞ」
「こうなっては一蓮托生ってのもあるけど、ここで君を見捨てて生きるのは友としておかしいだろ」
Kは歯ぐきが見えそうなほど大きく笑って見せた。思わず泣きそうだった
だがしかし、食事を食べ終えて会計に向かう頃には涙は引っ込んでいた
「嘘だろ、あれ食べきっておかわりが何で入るんだ? 今月の食費……、私は神託の前に飢えて果てるのでは?」
「あ~、ごっちそさん。これからどうしようか? 流石になにか手掛かり掴むなり協力者が欲しいよな」
「協力者……、あっ! さっき狐憑きって言ったよな。つまりとり憑かれた人間がいる訳だ。そいつなら」
「やっぱり狙うならそいつか。同意するよ」
店を出て今朝の散歩道をたどり、神社を探す
「そう言えば、消えたんだったな」
数時間歩いてもさっぱり見つからない。日は落ちて街灯がつき始める
「腹減ったなぁ」
奢った時値段と財布見て食事はしなかった。今後はもやし炒めさえためらう日々だ。ぼんやりと空を見上げる
___シャン
「君の友人はずいぶんと計算高いんだな。まさかこんな手を使うとは」
電柱の上から黒い狐の面の男が眼前に着地してきた
「仕方ない。すこし
「へ?」
混乱する私に狐の面が突如覆い被さる。温かい風が全身に駆け巡り魂が上へ引き上げられる様な感覚。私は一体なにをされて何になった?
「……まさか狐憑き?」
「実は黒狐が保護するのは貧困で飢える人も対象なんだ。丁度奢ると言ってくれたから財布が空になるまで食べさせてもらったよ。上手くいって良かった」
Kは満面の笑みで答えた。後で一発殴ろう
「はぁ、久しぶりの現世だ。嫌になるな」
元狐憑きはダルそうにぼやいていた
狐憑きを探していたら、自分が狐憑きになった。今日は本当に一体何なんだ?
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