第11話 納得と心の傷と北海道と
知らない間に自分の命が狙われていた話と自分がマルスと盟友になる未来があったという話を聞いて、前者は驚いたが後者はなんとなく納得できた。マルスが何を背負ってこんな事をしているかちゃんと知りたいと思う自分がいたからだ。
「マルスからすれば未来の盟友を奪われて敵対しているって訳なんですね。哀れというか想像したくないというか」
「いくら予測しても予知しても起こらなかった未来なんて価値ないですよ。あんまり深く考えていると予定通りフィクサーが来ますし。……なんちゃって、フフフ」
そっちに行くなよと脅されている。脅しで済むならマシだから不快感とか感じないな。そもそも恐怖の大王と呼ばれるアンゴルモア復活って私の趣味じゃない。世界を変えるにしてももっと別の……。
『私の友人なら別の目標を定めているはずだ』
頭に変なのが残っている。いや、深く考えてはいけないな。思考回路が何かに引き寄せられる。
「……深淵魔法の恐ろしい所は一度でも使うか受けるかすると永遠に深淵を扱える者同士どこかつながりを持ってしまう所だ。君が今思考に干渉された様にね。ワタシはそのつながりを追ってここに来れたわけだけど」
「って事は深淵でずっとこちらを監視してましたね。どうりであのタイミングで出てこれる訳だ」
「そういう訳です。今もKが自慢のコレクションを身を切る思いで選んだのだって見えますよ。このレコードなら深淵の潜り方とアンゴルモアの遺体安置所2つが妥当かな」
「結構ありがたい物もらえますね。深淵の潜り方ってのはよくわからないですが」
「例えるなら疑似的なワープとテレパス」
Wさんは地図を取り出して、この店とこの駅どう行けば最短で移動できますか?と聞いてきた。
「こうでしょ」
私はパタンと地図を折り、店と駅の位置を重ねてあわせた。これなら1歩すらいらない。
「正解! そして深淵は全ての最奥、全ての入り口が全ての出口でもある。だから一度深淵に経由すれば距離関係なく別の深淵の出口へ行けるんです。深淵はまあ地図が折り重なりすぎておかしくなった超次元と解釈しても構いません」
「次元。……もしかして時間概念も重なっていたりします?」
「その発想いいですね。その辺は調べなければ分かりません。深淵もまた解き明かせていない世界の理、神秘の一つ。まっ、んな事より潜り方等はこんな感じです」
弾かれた指の音ともに突如脳内に情報の泥をぶっかけられた。
「うわぁ、気持ち悪い。でも全部渡された情報が分かる。思考とか記憶とか概念も深淵に投げ込めば瞬時に情報渡せるのか。一気にアレコレ分かってしま……吐きそう」
与えられた情報を処理することに精一杯で心の声と現実の発言があやふやになる
「この情報の渡し方どうにかならんのか? あと飽きてきたら投げやりにやるのは悪い癖だぞ」
風呂敷に包まれたレコードと頭を抱えながらKがはい出てきた。よく見ればHもフラついている。……相変わらずオロオロしているシロさんとお茶菓子悩んでいるコムギさんかなり平然としているな。もしかして深淵に触れていない? あれだけ戦闘訓練やってKからの攻撃全部防ぎきっていたんだ。私達の実力差ってここまで。
「ああ、お茶どうも。レコードもらったし飲んだら帰るよ」
「そうか。で事後処理ってどうやってくれるんだ? フィクサーって組織は何ができるか良く分からない」
「この事件自体が全部なかった事になるよ。記録はもちろん目撃者の記憶も消えてなくなり、KとNは大学生活を謳歌していた事になる。常盤姉妹とHはこれまで通り世間では行方不明のまま」
ぐいっとお茶を一気飲みして一礼をするとWさんは影も形もなく消え去った。
「嵐のような人ですしたね……波乱を起こすだけ起こしてなんともとも」
シロさんが言葉おかしくなってる。予想外に弱い人なんだな、私が支えないと。
「一旦休んだらどっちか行きますか。Kはどのぐらいで復帰できそう?」
「一晩寝かせてくれ。アレ交換に出したの本気で辛い……」
「あらあら、可哀想に。うちのお饅頭も食べていいですよ」
「もう次の行動準備してる。ここ1か月で今までの6年が何だったんだってぐらいサクサク話が進むな」
「あたし達未来視ありの6年で腕一本だったものね。フィクサーとか知らなかった」
Kの心の傷を癒す夜を超え、新しいアンゴルモアの遺体回収を開始する。
「とりあえず二つの内重要性の高いアンゴルモアの心臓部を狙います。もう片方は後回し。目標は北海道の知床半島の、どこか! 何故か定期的に同じ場所をグルグル移動している。地図と照らし合わせると公道っぽいね」
「車で定期移動……バスとかの中?」
「行けばわかるさ」
「「今回はなんと、私達もついてきちゃいます!」」
「「「イエーイ!」」」
KとHが乗ってくれなかった。寂しい
「じゃ、向こうで合流しましょう。普通に瞬間移動できる人は深淵に踏み入る必要もないですし」
魂にへばりついた泥水に全てを押し付けるようにして深淵に一歩踏み込む。踏み込めばもうソコは深淵。ありとあらゆるものが重なり全ての色を混ぜて黒になる超次元。そこからWに教えてもらった行くべき入り口へ。さらに1歩踏み込む
「あーあ、二歩で北海道まで来ちゃったよ。初めてなのに風情ないね」
「金がかからないからぼくはこっちの方がいいぞ」
既にここは公道。流石北海道、道が長い。
「深淵から……人が?」
声の先には伸び放題のひげと髪、汚れた服、濁った瞳。むき出しの心臓部がおかれたボロボロの軽トラ。察してしまう車内ホームレスの男性がアンゴルモアの遺体を持っていたのだろうと。
「こっ、ここ、これは渡さねぇぞ!」
車は走り出し、合流前に追跡戦がはじまった
――神託の日まであと73日 所持遺体 両腕部
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