第12話 新技と観光と驚天動地と

 初めての北海道、夢の知床半島、カニ食べたい、ウニも鮭も旬なのかは知らないけれど。そんな淡い期待と小刀を抱えて私はアクセル全開の軽トラをその足で追跡している。


怪重拳術かいじゅうけんじゅつ 風切かざきり蹄鉄ていてつ!」


 軽トラは明らかにスピード違反だが、こちらは自力の走りだからスピード違反じゃないはずだ。今時速何十キロかは知らないけれど、道路交通法は人間がその速さに至ることを想定していないはず。

 ……どんな場面でも余計な事を考えるのは私の悪い癖だな。合流の為残ったKに渡されたこの小刀の意味も良く分からないが、とりあえず今は走ろう。追い付けなかったら軽トラに投げ込めとの事だが、普通に追いつきそうだな。バックストリームだっけか、高速で進む物体の真後ろにいると物体に向かう追い風ができるって奴。アレのお陰か。そう思いつつ理ノ重で風を重ね続けた

 

 また悪い癖が出てきたとき、眼前に軽トラの荷台があった。

「急ブレーキでの追突は人間でも交通事故だね!」

 足から重ねた風を射出し、空へと駆けた。我ながら大分人外じみた技が使えるようになってきたものだ。

 避けるついでに軽トラの運転席ドアにつかまって会話を試みる事にした


「あの、お話とかできませんか? その心臓部はアンゴルモアの遺体で大分危険な代物なんです」

 運転席の男はなんだこいつと言わんばかりに困惑混じりの警戒の目を向け、私をドアごと蹴り飛ばした。

「え、修理代持ってないんですけどーーー」

 再度アクセル全開にされた軽トラが私を置いて走り出した。仕方ないので小刀だけ荷台に投げ入れた。鞘がついているし傷はつかないだろう、うん。

「とりあえずドアを道路から離れた場所に置いて、再追跡だな」

 ドアを抱えて後続の車が来た時、事故の原因にならないよう道路から少し離れた場所に置く。そしてオイルライターを取り出し…あれ、なんか軽トラが止まってる。なんで荷台にKが? 小刀を使った深淵剣術の新技か。多分小刀自体が深淵で出来ているからを出口に設定してそこから出たな。

「おーい、K? どうなった?」

「お前さんたち……フィクサーじゃなかったのか。すまない」

「フィクサーから情報はもらいましたが、まあ別勢力なんです」

 荷台からKが説得している。フィクサーだと思われたとたん全力で逃げて追突事件目前まで。酷い扱いだ。やっぱりWは噓つきでフィクサーは平和組織じゃないな。

「Nさん大丈夫? 怪我とかしてない」

 助手席側のドアからシロさんが出てきた。瞬間移動すごいな。

「安心してください。この通り元気ですよ」

 両腕を上げてマッスルボーズ。多少道化師めいているが交渉できる柔らかい空気に持っていこう。

「この状況でそんなポーズとれるのはNぐらいだよな」

「うちらは意外と内弁慶とか恥ずかしがり屋ばかりだものね」

新しく助手席側のドアからHとコムギさんが登場。

「N、交渉はぼくとコムギさんが引き受けるから君はHとシロさん連れて適当に時間潰して」

「うーい、了解」

 こうしてKとコムギさんは真剣に話始め、私達交渉不向き組は軽トラのドアを直したりお昼ご飯やお土産の予算配分を話し合った。折り紙でドアを直せる式神献術すごい。

 お昼ご飯の後、農場にいってプリンとアイスクリームはお土産に。お昼ご飯は海鮮丼かステーキかハンバーガーか三者三様に話し合った。たまにKから「こっちは真剣なのになにやっているんだこいつら?」という視線を感じなくもない


―――閑話休題


「はい、交渉の結果これから銭湯へ行きます。お昼ご飯はその後です」

「どうしてそうなった。こっちとそう変わらないじゃないか」

 Kはこちらを無視し軽トラの住人を紹介してくれた

「あっしは片木かたぎ二成郎になろう。腹を割って話すなら裸一貫で同じ釜の飯を食う、そういうのがスジでしょう」

 うーん、変人。名前がカタギなのに話が三流ヤクザ映画。なるほど、頑張ったんだなK。温かい目線を送る


 一同、銭湯へ。


 コインランドリーで片木さんの服などの布類を洗って、銭湯で髪をあらい背中を流しあい、湯船につかり、なんかサウナ室あったからワクワクしてそっちも行ったりして身を清めていざ、昼飯。

「この喫茶店がオススメでい。例の物の護衛を任される前はよくここで組長と……」

 つらつらと語る片木さんと舌鼓をうつ我々。これ完全に北海道観光だ。

「とまあ、この心臓部を息子から守り抜くよう命じていた組長がとっくに亡くなっていたとは。K、お前さんも頑張ったんだな……」

 ほんの少しだけ涙を時にませる片木さん。

「もしかして……その組長ってKさんの」

「コムギさんの予想通り、僕が護衛していた人。守秘義務があるから名前は言わないよ」

「息子さんから守れって一体何があったんです?」

「言えない」

「心臓部危ないので封印なりしたいのですが」

「できるものならやってみろ」

秘伝賢術ひでんけんじゅつ 狩籠丘かりごめおかの再来」

 即座にコムギさんが術を発動し、透明な岩が心臓部をつつみ隠した。何かの力も感じないし、一般人にはもはや見る事すら叶わないだろう。あれ、これって……


「封印……できちゃった」


 本人でさえ驚愕していた。北海道観光していたら驚天動地の展開になってしまった。もうこれで話が終わったかも知れない。これからどうしよう


――神託の日まであと73日 所持遺体 両腕部 心臓部(封印済み)

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モルフェウス・チルドレン 涼葉ジロー @suzuha26

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