第5話 疑問と遺体とお泊まりと
結論としてサラマンドラは梅昆布茶漬けが個人的ナンバー1だった。火に強い身は熱しても固くならず刺身と変わらずプリンとした食感が楽しめる。だが肉として味が濃厚だ。ここは好みが分かれる点だろう。私は梅やポン酢など酸っぱい物と組み合わせてサッパリと食べるのが気に入った。K考案のサラマンドラのなめろうも美味かったがあまりにご飯のお供しすぎていた。あの時にご飯が尽きていなければ……実に惜しい。今が冬だったらおろし鍋にサラマンドラ入れてもいいのかもしれない。
「ごちそうさまでした」
食材や作ってくれた人達に感謝を込めて手を合わせる
「ごちそうさまです。これもう全部流し台に持っていっていいのかな?」
Kは率先して後片付けの手伝いをしようとして、コムギさんにお客さんにそこまでさせられないと止められていた。
「あのなNにK、これはいい事なんだがここに馴染むの早すぎないか? 今朝まで怪異と無縁の生活していたんだろ? なんか気を休める為の気遣いとか要らなかったんじゃないかと思えてきてさ」
Hさんは逆にこちらに対して混乱している様子
「いえ、お腹が空いていたのでお気遣いには感謝しています」
「ぼくはサラマンドラの調理とか実食とかワクワク出来たので」
「普通竜とか食べるの
色々諦めた空気を感じる
「先ずはこちらの情報をざっと話しておく。質問時間は別にあるから多少長くなっても遮らずにまずは聞いてからで頼む」
「はい、了解です」
「了解」
ちょっと手慣れた雰囲気だな。以前に何回か情報渡した事あるのだろうか、と思う前にさっきまで食事をしていたちゃぶ台に使いこまれたノートを開いてのせた
「まずはこのページからか」
我々(天玄様、Hと常盤姉妹)の目的と立ち位置
目的
1.マルスによる未来固定化計画(※後述1)の打破
2.アンゴルモアの遺体の確保。最低限でも頭部もしくは心臓部
3.アンゴルモアの遺体及び危険神秘(※後述2)消滅手段の確立
4.モルフェウス・チルドレン(※後述3)の保護
立ち位置
天玄様.神々は手を貸せないが神か霊獣かあやふやな私は助言と保護だけでもしよう
H.人類は俺が守る。だけど天玄様が憑いていないとそこまで強くない
常盤姉妹.今のHより強いが、この戦いで死にたくない。そもそも戦いたくない
後述1.未来固定化計画とは
どんな能力であれ見た未来を確実に起こす世界への革命。全生物の持つ可能性の否定。実行手段は蘇ったアンゴルモアの恐怖感染。アンゴルモアに対する恐怖が全生物に対抗手段として強制的に未来視を覚醒させる。だが全ての生物が同じ恐怖の未来を見ればそれは事実として固定化され、神々でさえアンゴルモアの支配を止める可能性が0になる
後述2.危険神秘とは
今回の件のアンゴルモアや世界中に点在するまだ人間に解き明かされていない世界と神々の秘密の内、特に危険な物。
科学で説明がつくものはもはや神々の秘密、神秘とは呼べずその力は失われる。が、0の割り算の矛盾しない使い道でも見つけない限り解きあかせないであろう神秘がこの世にはたくさんある。我々は科学以外のアプローチが必要と判断した。
ちなみに妖怪などの正体を看破すると逃げる話があるが、あれは神秘性の減少が起きて弱っているからである。部分的にでも『知っている』とか『分かる』という事が大事なのだ。神秘性は知っている人が増えれば増えるほど加速度的に減る。現在妖怪が見当たらないのも神々が手を貸せないのもそのせいだ
だが我々はそこに希望を見出している
後述3. モルフェウス・チルドレンとは
バタフライエフェクトを引き起こしやすい子供。特に珍しい事とかしないで未来を変える実質一般人。予兆なさ過ぎて正直なんでマルスが狙えるのか分からない。マルスはバタフライエフェクトを引き起こせるのは子供だけと思い込んでいるのかそんな名称で呼んでいるが実際にバタフライエフェクトを起こせるのは老若男女問わない。
「とまあ、マルスは普段子供か敵対者しか狙わない。大人は支配後の駒なので極力減らさないようにしている様子なんだよな。あのサラマンドラは俺が避難させたモルフェウス・チルドレンの家からでてきたから、元々君たちを狙った訳じゃなさそうだし。Nを天玄様が保護したから狙われたのかな? あれ、つまり俺のせい? やっちまった? いや、マルスが悪い。でも非はあるので申し訳ない」
初対面から呼び捨てしてくるくせに損する位に生真面目な性格なのだろう。ここはフレンドリーに接して心の負担を軽くしておこう。もうこちらも呼び捨てだな
「H気にすることはない、共に未来を変えようじゃないか!」
Hに肩を組み、Kもノれ! 来い! と目線を送ると真剣な顔が映る
「……なあ、神秘の減少は知っているだけで起こるならアンゴルモアの復活ってさテレビやらラジオとか本で一般的に知られている事だろ? 原理は謎とは言え神秘性の減少自体は相当なものじゃないのか。その上で本当にアンゴルモアは蘇るのか」
「確かに言われてみれば気になるな。神秘の減少の話を聞くとみんな知っているノストラダムの大予言だけでアンゴルモア復活を阻止しそうなものだものな」
Hの表情は険しい
「そうだな。本来の未来では1999年どころか平成の年号が変わったとしてもアンゴルモアは復活しなかったそれが正しい歴史だ。未来視の一族ノストラダムス家はそのために大予言の布教に尽力して来た。だがあいつは予言を実行させようとしている。マルス・ノストラダムスとして。だから何らかの方法はあるんだろう」
「「はぁ!?」」
「マルスってノストラダムスの一族なの? 未来視の一族とか重要そうな事がポロっとでてくるし」
「周知の物にして失敗させる為の大予言……とんだトリックだな。それでマルスは予言が外れた一族という汚名が嫌でこんな事しているって話? とんでもないな」
何という衝撃の事実。……しかし
「あのさ、疑問点の整理ってさコレ聞いてからすべきじゃない? めっちゃ考え事増えたんだけど」
「あ、はい。すいません」
「N、まとまらないならぼくから質問時間もらうな。アンゴルモアの遺体集めるのは何で?」
「え、蘇生術の神秘は大概遺体か新しい身体を必要とするからで」
「最低限頭部か心臓部ってあるからアンゴルモアの遺体はあるという前提で話進めているよね。現物みたり持っていたりする?」
「右手だけならこの神社に隠して……」
「見せて。早く」
「はっ、はい!」
Hは駆け出した。Kは研究する時の眼になっている。ここから有無を言わさぬ質問攻めだな。この覇気は8時間は最低限かかるかも。絶対に長くなるし巻き込まれる前に帰って寝ておこう。
「あ、Nさん。今日は危ないので泊まってこの部屋で寝てください。またサラマンドラとかが来るかもしれないので、今後の展開次第ではここに住むことも視野に入れておいてください。これ、お布団と浴衣です。風呂場は裏に露天風呂があるのでご自由に。ではでは~」
部屋の外からシロさんの声がした。洗い物ありがとうございます。って、え? まって、泊まると今のKはヤバいのですが
「ありがとうございます。シロさんとコムギさんは家に帰られるですか?」
不安を隠し、気遣いに答えた。このうそはちゃんとつけただろうか
「うちらもここの近くに住んでますから、何かあったらそこの鳴子のついた紐を引っ張ってください。ではもう1時になりますのでおやすみなさい」
あ、気を使われた。でも目線でKの圧から逃げたいのがひしひしと伝わる。今Kはノートに色々書きまくっているだけなのに覇気が強いものね。知識欲が爆発しているものね
「うん、じゃあおやすみなさい!」
逃げろ、君たちだけでも。サムズアップでそう答えた
「「おやすみなさい」」
一陣の風が吹き常盤姉妹は消えていった。カッコイイしアレ私も出来るようになりたいな。
「お待たせしました!」
Hが桐の箱を持ってきた。もうKに対する態度が舎弟になってきたな
「では拝見……んん!」
驚愕とは正にこれだという反応
「どれどれ?」
覗き込んでみると不思議な文字が書かれた包帯のような布でぐるぐる巻きになっている手が見えた。何語だろう? ただそこまで驚くようなものでもないような?
「もってる」
「は?」
「ぼく、これの左手もっている! 家にアンゴルモアの左手!」
「「はぁ!?」」
急展開は続くよ何処までも。安眠はまだまだできそうにない
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