第6話 偽物と石壁と初陣と

 時は既に深夜2時、私とHはK宅の玄関に腰かけていた。アンゴルモアの左手を預かってついでに行われているKの荷造りを待っている。貴重な資料とこの一件に関して役立ちそうな物を見繕ってくれるそうだ。一地域の千年前からの黒狐信仰資料、サラマンドラが来て家ごと燃やされたら取り返しのつかない年代物が多いのは想像に難くない。とっとと寝たいので手伝いたいがKは本棚は自由に使っていいと言いつつ本の並びを間違ると不機嫌になるタイプだし、取り扱いの分からない骨董品も勝手に触るわけにもいかず暇である。

 アンゴルモアの左手の入手経緯だが、元々Kはこの土地の信仰について調べていたがその比較対象として別地方の妖怪や土地神など一風変わった物を同好の士と共に集めたり調べていたそうな。アンゴルモアの左手は今までにない紋様で封じられた猿の手として怪しい骨董市で買ったらしい。猿の手とは3つ願いをかなえるが大きな代償を払うことになる呪具。外見は猿の前足のミイラで封印目的の布が巻かれていたりしていたりもするとかナンタラカンタラ。……眠い


「そもそもなんだって日本にアンゴルモアの遺体があるんだ?」

「それが分かれば苦労しない。俺だって神託の7月15日に特別何かあったかなってぐらいなのに」

「あ~、神託の正確な日付は7月15日か。思いつくのは地元のお盆だな」

「いやいや、お盆って8月だろ」

「そう言えば全国的には8月か。K曰く地元のは東京盆とか言われてるんだったな」

 もしかしたらアンゴルモアも日本人の仏さんに紛れてやってきたりするのだろうか。想像するとなんか嫌だなぁ。それにしても眠い………



『…おい、×!……××馬の足へ×お…………』


 ん、焚き火の前で私が叫んでいる? なんでそんな大声をだしているんだろう。コレなんだろう、夢にしては真に迫るものがあるな

「……おい! N!」

「んぁ」

 視界が暗い。寝てたんかなやっぱり。

「千里眼の途中で悪いが、臨戦態勢をとってくれ。囲まれた」

「囲まれたって何に? 暗いから電気つけてくれないか?」

「何か分かれば楽勝だろうが、そううまくはいかない。さっきから電気もつかない」

「ふむ、さっさと撤収するか。で、Kは?」

 現状は無理に戦う必要もなかろう。アンゴルモアの左手回収が最優先だ

「まだ確認してない。電気が消え、囲まれたのを察して君を起こした段階」

「OK、じゃあ一緒に行こう。あと君が左手持っていてくれ。最悪の場合囮になるから一人で逃げて。あの風でどっか行くやつは私にはまだできないし」

「縁起でもない事言うなよ」

 撤退を選択した以上Kには悪いが外靴のまま家を進む。勝手知ったる友の家、暗くて見えなくとも進むのはわけない。非常灯は玄関からリビングへの扉横。早速手に取って電源をつけてみる。前は見えても戦うには心もとない明るさが前方に

「非常灯は普通につくのか。ブレーカー落とされたか単にここの電線切れただけか?」

「それにしてもKの声が一切聞こえないのはなんでだ? こっちは靴でドコドコ足音立てんだ。無事なら異常を察知してこっちに来そうなものだが」

「……もし仮にKが人質にされていてもH、君は振り返らずに逃げるんだぞ」

 覚悟を決めてKの部屋の扉を開ける


「おっとどうした? 待たせて悪いが、あと段ボール1箱分ぐらいだから」

 Kが本棚の前に立ち部屋は普段と変わらず電気がついていた。おかしい、非常事態とは言えKが自室に土足で入られて嫌がるそぶりを見せないはずがない。Hに非常灯押し付けて部屋から出し扉を閉める。直後走る足音が響く。察しが良くて助かる

「お前は誰だ?」

 お喋りに乗ってくれるならそれだけHが逃げやすくなる。

「おやおや、偽物と気づいたなら先制攻撃でもするべきじゃないかな」

「とっととKの居場所を吐くなら逃がしてやる。これを言う程度の情けはあんだよ」

「いらない情けをどうも」

 偽物は内ポケットから鉛筆程度のちいさな杖を取り出した。これ以上の会話は無駄だろう。窓は偽物のKをはさんで前方、突撃して外へ叩きだすとしよう。囲んでいるらしい何かと合流されるだろうが、出口とは反対側。その分Hの負担も減るはず

「うおおおぉ!」

 今は自分の力の使い方も分からん上に一人。全力でぶつかって、出たとこ勝負だ!

は狐というより猪だな」

 今回の。やはりHの前任者もしくは協力者はいたのか。多分亡くなったのだろう。だからシロさんもコムギさんも戦いたがらず、Hは説明が手慣れている。

 ぶつかりながらも頭はずっと回り続けていた。Hは我流の技で戦っていたのは神秘の減少の話で予測がつく。我流、つまり人の技なら神秘の減少は起こらず高威力が出せるのだろう。敵さんは狐憑きの神秘は知っていそうだし


――今ここで自分自身の流派を作ってやる!


 裏庭にガラスがまき散らされ、私と偽物は間合いをとる。周囲には10mはあろう石壁ができていた。なるほど、逃げられない。こいつを倒しておかなければ壁の破壊は難しいだろう。なんにせよここが正念場



「これが本当の初陣だ。太宰成久、推して参る!」

「真名の口上……こちらも名乗らねば無礼というものか。マルス・ノストラダムス、略奪を遂行する!」



 未来を切り開く戦いが今、始まった

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