第3話 火事とバトルとサラマンドラと

「どうして私を狐憑きにしようと思ったんだ、K!」

「ははは、調べた伝承通りになるか知りたくてねぇ!」

 私は混乱を怒りに変えてKにぶつけていた

「あのですね、喧嘩は良いですがちょっと逃げてからにしません?」

 そんな事を急に元狐憑きが後ろの民家を指さしながら言ってきた。燃えていた。一軒家が丸々燃えていた。アレ、あの、え~っと、ああ、火事か。余りにも唐突な事態に脳が追い付かない

「多分アレから逃げないと死にますよ。あーあーマルスもとうとう本気出してきたか」

 燃え盛る家から3mはあろうトカゲ?の頭がでてきた。なんだあの化け物

「なんだ……コレ? トカゲ? いやオオサンショウウオか? デカくない?」

 Kも混乱している

「だから早く逃げてっての……に!」

 私とKは耳をつかまれた上で全力で引っ張られ強制的に走らされる。痛いからきっと夢じゃないんだなぁと脳が段々と理解を許容し始めた

「狐憑きに成りたてで悪いけど、狐火とか出せる? 他の神通力でもいいですがね」

「狐火って言われてもねぇ、ええ!」

 私の左の手のひらにいつの間にか真っ赤な炎が出来上がっていた。その炎を見て驚いたのか化け物と目が合った。

「あ」

「GUUUUUU!」

 突如として化け物は家々をぶっ壊しながらこちらに向かって走り出してきた。頭以外もでかい! 怪獣映画とかで銃では歯が立たなくてタンクローリーとかぶつける位のデカさだ!

「なにやら分からんがとりあえず行け、火!」

 左手の炎を投げてみる。空中にひょろ~んと弧を描き道路にポテンと落ちた。化け物まで飛距離が足りない! 内心ビビり散らしている中化け物は思わぬ行動に出た

「GU! GU!」

「狐火を食べている!? なんなんだあの化け物!」

 化け物はモグモグと炎を咀嚼し飲み込んだ。その様子を見てKは何か納得したようで

「火事の家から出てくる、外見はオオサンショウウオ似、火を食べる。ああ、アレはサラマンドラか」

 何故分かるK! そしてなぜ冷静に解説できるんだK! もしかして現実逃避しているのかK!

 その話を聞いて元狐憑きはかなり驚いた様子で

「おい! Kとか言ったな、お前さんアレが何なのか分かるのか? アレは五行で言えばなんだ?」

「サラマンドラに対して五行思想? え~、多分だけどアレは水行。オオサンショウウオが火事の家から出てきて火を食べに来た、火に強い存在だという古い伝承が転じて火を扱うドラゴン、サラマンドラになったという話を読んだことがある。火を扱っていても本質的には水辺で暮らすオオサンショウウオ同様に水行なんじゃないかな?」

「そこまで正体看破しているなら、俺達だけで勝てそうだな」

 ここでようやく元狐憑きは耳から手を放してくれた。非常にジンジンする耳を押さえてKと私は向き合ってハモる

「「勝てるの!?」」

「「いやいや、無理だろ」」

「コンビ芸は後にしてくれないかな?」

 元狐憑きはポケットから犬笛を取り出し近所迷惑お構いなしの音量で吹き鳴らした

「うるさい!」

「? 犬笛は普通聞こえんだろ」

「狐憑きになったら聞こえるんだった。すまない……じゃない! 戦いに備えてくれ。どうも調子狂うな」

 サラマンドラはその音が不快なのか顔をしかめてから明らかな敵対的な目線をこちらに向ける

「俺がサラマンドラの動きと炎を止める。君は全力でぶん殴れ。それで終わりだ」

「ぼくはなにをすりゃあいいんだい? 一般人に出来ることなんて……」

「我流精霊術 烈風封牙れっぷうふうが 双式そうしき

 謎の言葉を呟く元狐憑き、無視されるK、とりあえずボクシングの構えをとる私

「GUUUUUUUUUUUU!」

 突進してきたサラマンドラに風が噛みつき炎と動きを2連撃で止める。普通の人間じゃ分からないだろうが狐憑きになると風さえ視認できるとは……。あっ、私殴りに行かねば

「とりあえず出たとこ勝負!」

 ジャブ、ジャブ、右ストレート、左ブロー、ジャブ、ジャブ、ジャブ、1、2、左アッパー!

 手ごたえはあった。サラマンドラはほんの少しもがいた後完全に動きを止め、開きっぱなしの口からさっき食べたであろう火が流れ出た

「あっつ! 熱、消火器、いや消防車!」

 Kの靴とズボンのすそがちょっと焦げている。何をその程度でと思ったが向こうで家燃えているんだから当然か。耳を澄ませば遠くから消防車のサイレンが聞こえる

「このサラマンドラとかどう事情を説明すればいいんだろう」

 この先について考えていると元狐憑きはサラマンドラを抱えて引きずりだした

「こいつに関しては俺らに任せろ。ついて来てくれ、神の世界に招待してやる」

 一陣の風が吹くと眼前には道路の真ん中に朝消えたはずの神社があった。神の世界……なんだかもう色々ありすぎて疲れた。私とKはぐったりと歩を進めたら

「「いらっしゃーい!」」

「ようこそようこそ、お茶入れるね」「ご飯たべる、お腹空いたでしょ」

 元気すぎる女の子二人が出迎えてくれた。だが、頭とおしりにはふつうない物がついている

「君たち……狐?」

「「ごめーとーーー!!」」

 うるさいし、当たっているし、これからどうなるんだろ私達

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