善悪とは

何となく自主企画イベントを見ていて、貴方のイベントが目に留まって、プロフィールを読んでみればエブリスタの利用者とあった。あのサイトに良い思い出は全く無いが、何となく郷愁のようなものを感じて、読んでみる気になった。

先ずは称賛を。

全く、良くもまぁ此処まで纏め上げたものである。東西の神も神話も文化も、全て一つの鍋にブチ込んでグツグツに煮詰めるという無茶な調理法をこの作品はやってのけている。しかも味を整え、盛り付けを整え、それを一つの世界として成り立たせているのだから驚きだ。神は信仰から生まれ、信仰は慣習から生まれる。同じ人間でも異なる歴史を刻み、異なる文化形態を築いた人々から生まれた各神話の神を同一の世界観に描く事など至難の技だと思うのだが、この作品はやってのけている。しかも、無学な私でも読みやすい、非常に口当たりの良い仕上がりで。作者様の博学ぶりと、世界観・物語の構築能力には、ただただ脱帽するばかりである。

ただ、だからこそ残念な所もある。
(此処から先は個人的な嗜好の話であり、公平な視点は敢えて放棄している。気にする必要は全く無い。嫉妬、負け犬の遠吠えと受け取って貰っても一向に構わない)

第一に、読んだ限りだとこの作品は邪に関しては良い所ばかりに目を付け、善に関しては悪い所ばかりを抽出しているように見受けられる。善悪は切り離せない、その意見に関しては全く以て同感だが、人間がなぜ邪悪を忌避し、善を良しとするのかという感情的且つ根本的な話に関しては全く触れていないように思えた。特に邪に関しては最早名ばかりで、何と言うか、"立場"的なものでしか機能していない。少なくとも、主人公ズに関してはこの属性を与えきれていないように思えた。とは言え、隙あらば寝首を搔き、自身の利益の為に化かし合い、裏切り合い、息をするように隣人をバカスカころす、なんて陰鬱な空気を撒き散らせば、それはそれでこの作品は成り立たなくなるような気もする。難しい問題である。また、この問題は福音の章で大分取り戻していたので、読了する頃には最初程気にならなくなっていたのも事実である。

第二に、ヒロインがやや主人公にとって都合が良すぎる傾向が見受けられた。出会いのシーンの即断即決はまだ良いとして、抗争のシーンの彼女の反応は、やや首を傾げてしまうものだった。ヒロインはよくインフェルノの住人達からその無知っぷり(私はあれを無知と呼ぶのは抵抗を覚えるが)を馬鹿にされているが、彼女には彼女の積み上げて来た価値観があるだろう。その辺りの描写が無いように見受けられ、この時ばかりは私は彼女が不自然な行動を行う人形に見えた。

文句ばかりが多くなってしまったが、私は気が短く、少しでも気に入らない部分があれば、その物語を読めなくなってしまう。それにも関わらず、私はこの物語を読了した。それだけこの物語は魅力的だったのだ。

以上である。

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