料理人の腕が光る作品です。

素材、即ち物語の骨組自体は王道のそれである。無駄に尖ったアイディアに縛られている訳でも、物語そのものを破滅させるような展開が用意されている訳でもない。普通に手に汗握り、普通にワクワクし、普通に次を読み進めたくなるような、そんな"極々普通の"王道物語である。

そんな素材の味を十分に活かし、独自の個性を持ちながら食べ応えある一品に仕立て上げているのは偏に作者の腕である。素材を潰さない調味料、それを使った味付けの技法。即ち、登場人物や世界観、それらをどう動かし、物語に関わらせるかという構成力である。

次々と出てくる登場人物達は、主人公を称えるだけのモブではなく、一人一人が思考し、人格を備えた作品世界の住人である。物語の舞台や世界独自の法則は有って無きが如しの上っ面ではなく、物語上の制限や展開に大きく関わって来ている。読者は主人公サイドのチームの絆や軽快な掛け合いに憧れを抱き、敵サイドの強大さや息を詰めるような展開に緊張を覚え、紡がれる物語を一つの世界として認識出来るだろう。

要約すれば、非常に面白い作品だったという事である。とある漫画家はあるアニメ映画のエンディングテーマが流れ出した時、「終わるんじゃねぇ金○ロードショォォォォォォ!」と画面に突っ込みたい気分に駆られたというが、一章読了時点で同じ気分に駆られてしまった。




以下は意見である。
登場人物の描写をもう少し増やしてはどうだろうか。と言うのも、一場面に結構大量のキャラクターが出てくる為、キャラと名前が一致しない時が時々あったのである。名前や種族の他にもう一つ、地の分でワンポイントあれば、それが取っ掛かりになってキャラクターを把握しやすくなるのではないかと感じた。無論、キャラクターが多く出る分、一人一人を細かく描写するとカロリーが凄い事になるのは理解できるが、もう一声あるとより分かりやすくなり、貴作の物語の魅力がより伝わるのではないだろうか。

とはいえ、飽くまで残骸の一意見である。必要以上に気にする事は無いので、これからも楽しんで書いて頂ければ幸いである。

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