そして彼は気づいた。
そして翌日。
「りょーうくん! やっぱりここだった。四限の体育、サボったでしょー。…あれ、どしたのー? 何か暗いよ」
学校へは来たけど、退屈なだけの授業に出るのもつまらない。だから裏庭のベンチで寝ていた俺のところへ、芙美もいつものようにやって来る。
「別に。ちょっと寝不足なだけだ」
俺が慌てて言うと、そうかなあ、なんて言いながら、芙美は俺の隣に座った。
まさか女みたいにダイエットのことで悩んでる、なんてコイツには言えない。いつもはトボけてるのに、妙なところで鋭いんだから。
学校の裏庭にいついているらしい猫たちを何となくいじっていたら、
「ほら、じゃーん!」
芙美は後ろ手に持っていた大きな包みを差し出した。
「今日のお弁当は、中華風こってり春巻きだよ。中にチーズ入ってんの」
「サンキュ。ホント悪いな、いつも」
「いいっていいって。私がやりたくてやってるんだもん」
よいしょ、と隣に腰を下ろし、コイツは包みを広げ始める。
「それにさ、モデルさんって、意外にハードなんでしょ? 夜もすごく遅くなる時、あるみたいだし…少しは体力付けとかないと、体がもたないんじゃないかと思ってさ」
そして俺に向かってニコニコ笑う顔を見たその瞬間、やっと分かったんだ。
(俺が太った原因の一つは、お前の弁当だ)
体育の授業も、たるいからサボって、おまけに芙美の弁当がうまいからついつい食べ過ぎて…だって、食べないと芙美が悲しそうな顔をするから、つい食べてしまうんだ。
(運動不足と、食い過ぎ、か)
そりゃ太るだろう。そういうことに疎い俺だって分かる。確かに、モデルって、ただカッコつけて立ってるだけとか、寝そべってるだけっていうわけにはいかなくて、それなりに体力も必要なんだけど…要するに、『それ以上』食わされてるってことなのかな。
「どしたの、涼君。ほら、食べようよ」
ついボーッと目の前の顔を見てたら、不思議そうに声をかけられて、俺はやっと芙美から視線を外した。芙美は顔を真っ赤にして、同じように顔に血を上らせた俺に弁当を差し出す。
「ああ。もらう。頂きます」
そうだ、まだ三日ある。ダイエット、どうやって始めたらいいか分からないけど、三日もあれば、一キロくらいは減ってるだろ、多分。それにモデルの仕事だって、コイツの弁当には代えられない。
「ごちそうさま。腹、一杯だ。サンキュ」
幸せな気分で芙美の顔を見ると、芙美も嬉しそうにうなずいた。
「これからお昼寝、する? 天気もいいし、私もサボっちゃおうかなー」
「ああ、そうしろよ」
そして、俺たちは二人で仲良く眠ったんだ…。
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