そして彼は模索する。
なんだかやたら、食い物ばかりが出てくる夢を見て、あまり良く眠れなかったその翌日。
(あ、あいつ!)
二時間目の授業が終わっても、まだまったりしてるみたいな感じがする腹をさすりながら、俺は芙美を他の男からガードするためにアイツの教室へ歩いてた。
その前で、
「んー、だからさ。僕と一緒に来週の日曜日、どこかへ出かけないかって」
芙美をくどいてるヤツがいる。
「ね? 美味しいランチの店、見つけたんだ」
「あの、でも私、日曜日は宿題を」
引く手あまたなはずのヤツの狙いは、今度は俺の幼馴染らしい。しどろもどろに答えてる芙美とヤツの間にムッとしたままの俺が割り込んだら、
「おやおや、こんにちは、モデル君。モデルの癖にそんな怖い顔してたら、女の子にモテないよ?」
「…お前に話がある」
からかうみたいに言われて、もっとムカついた。
「芙美。いいからお前は教室ん中、入ってろ」
「う、うん」
俺が続けると、芙美は戸惑ったように頷きながら、素直に教室の中へ入っていく。
「あまりアイツに近づくな」
アイツに聞こえないように、ドスの聞いた声で囁くと、
「…やれやれ。彼女には怖いガードマンがいるんだねえ。近づくな、なんて君に言われる筋合いはないんじゃない?」
北条は肩をすくめてきどったポーズをとった。なんだってこんなヤツが県立に入って きたんだろう。コンツェルンの坊ちゃんなら、他の私立とかに入ればいいのに。
「僕だって、あんな可愛い子になら毎日お弁当を作ってほしいなって思っちゃうよ。いいね、君は。幸せ太りで」
「…幸せ太り?」
「そうそう」
…なんとも『面妖な言葉』を聞いた。俺がつい聞き返すと、コイツはしたり顔で頷く。
「あんな可愛い子が、毎日手作りの弁当を作ってくれるんだよ? だから君、最近太ったんだねえ。幸せだろうねえ、いいねえ」
「…お前はオヤジか」
最後の部分は聞き流したけど、『幸せ太り』っていう意見にはうなずけるところがあって、
「じゃあ、どうしたら元に戻れるのか、お前、知ってるんだよな?」
人のことを「太った」って臆面も無く言えるくらいだから、そっち方面の知識もあるんだろうと思って、腹立ち半分で俺はもう一度尋ね返す。
「どうするもこうするも…まあ、まずはダイエットじゃないか?」
するとヤツはまた肩をすくめて、
「ご飯をあまり食べないようにして、体育の授業はサボらないで出る。これだけで結構成果出るんじゃないかな。とにかく体を動かすことだよ。…そういや君、ホント最近、顎の辺りとかふっくらしてきたよね」
一言余計だ。
「…大きなお世話だ」
やっぱりムカつくから、口ではそんな風に言ったけど、
(早速実行してみることにしよう)
心の中では密かにそう決心して自分の教室へ戻りかけた俺の背中に、北条がまた余計な声をかけてくる。
「まあせいぜい頑張りたまえ。失敗しても、君の幼馴染は、僕が面倒を見てあげるから安心するがいい。人間、わき腹に肉がついたらオワリだからね」
…失敗は絶対に出来ないと思った。
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