そして彼は模索する。
(さあて、どうしたもんか)
『三日後にもまた撮影があるから、それまでに1キロは痩せて来てよねっ』
デザイナーの
今日は特に何の予定も無いから、アイツとゆっくり帰ってこられると思ってたんだけど、家が近づいてくるにつれて、あのカマ声が余計に気になり始めてどうしようもない。
いつもみたいに芙美をお隣まで送り届けて、
(まだ帰ってきてないみたいだな)
自分ん家の玄関の扉を開けながら、これもいつものごとく俺は思った。
共働きの両親のうち、どっちもまだ帰ってきてないらしい。風呂を沸かしながらふと思いついて、風呂場で埃を被ってた体重計に乗ってみた。
すると針は回って、七十少しなんていう信じられない結果をはじき出す。…ということは、プラス八キロ強? 知らないうちにこんなにも増えてたんだ。確か四ヶ月前、モデルをやらされることになって図った時は、一七八センチの身長に、六二キロくらいだったと思うんだけど…。
これは確かにまずいかもしれない。だけど一体、どうやったら痩せるんだろう。
柄にも無く深刻に考えながら、部屋に戻って着替えようと思っても、無意識に楽そうな服を選んでる自分に気がつく。
いや、俺はもともと締め付けられるような感じのする服は好きじゃないから、ラフっぽいヤツしか普段着にしてないんだけど、
(それにしても、苦しいな、やっぱり)
なんだか着られる服が少なくなってきてるような気がする。で、服を選んでいる最中に、ふと思いついて鏡の前に立ってみた。上半身もろ脱ぎになって、少し捻ってみる。
(…)
わき腹が、三段になった。
(……)
今度は下っ腹を少しつかんでみる。
(………)
そしたら、なんだかサンドイッチみたいな厚さでつかめた。
(やっぱり、太ったんだな、俺)
別にどうでもいいことだとは思っていたはずなのに、やっぱりちょっと軽いショックを覚えたその時、
「涼介! いるの? ご飯買ってきたから降りてらっしゃい!」
オフクロの声がする。どうやら仕事から帰ってきたらしい。
「分かったよ!」
まあ、とりあえず腹は減った。腹が減っては戦は出来ぬっていうし、これからダイエットするにしたって、必要最低限のエネルギーはきっと必要だろうから、
「すぐ行く!」
階段の下へ怒鳴り返して、俺はダイニングへ降りていった。
…オフクロが買ってきた、おなべ屋のカレー弁当大盛りを、どうしてだかペロッとたいらげてしまえたのには、われながら驚いたけどな。
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