そして彼は模索する。

「えー、涼君、食べてくれないの?」

「…悪い。ダイエットしてるんだ。聖護院センセイも、うちの社長も、絶対に痩せろって言って、あれから電話もかかってきて」

 やっぱりな、こうなると思ってたんだ。

 昼休み、意気揚揚と俺の席の前に現れた芙美は、俺が事情を告げるとたちまちシュンとなった。

「ダイエットなんて…。最近の涼君、なんだか倒れそうに見えてたんだよ? 今の少しふっくらしてる涼君の方が、私、ずーっと好きだな」

「……」

 好き、っていうのはコイツの場合、「親愛」の表現なんだって知っているんだけど、

(…ダメだ)

 くじけそうになる、そんな風に言われると。ダイエットやってるヤツら、こんな気持ちをいつも味わってるんだろうか。

(だとしたら、成功した奴らにはものすごい意志力と精神力があるんだろうな)

 俺は諦めのため息をついて言った。

「食べる」

「え、ほんと?」

 たちまち輝く芙美の顔。そんな顔が見たくて、俺は生きてるんだ…大げさじゃなく。

「ああ。頂きます」

 俺が言うと、芙美はいそいそと弁当の包みを広げて、

「そうこなくっちゃ! どうぞ召し上がれ。今日は、チーズ入りスパゲッティカルボナーラだよ」

 ひょっとしてコイツが作るのって、濃いのばかりじゃないか? コイツは食べても太らない体質みたいだから、それでもいいんだろうけど、

「はい、どうぞ。冷めてもおいしいよ、絶対!」

「…うまい」

 目を輝かせる芙美の前で、俺は最初の一口をかみ締めるようにしながら頷いた。ほんとにうまいから、なんだかものすごく複雑な気分だ。

「わーい、嬉しいな!」

 芙美はにこにこ上機嫌で、そんな俺を眺めてる。…せめて六限の体育の時間は、寝ないで頑張ろう。

「ごちそうさま。うまかった、ほんと」

 心の中で密かな決意を固めなおして俺が言うと、芙美は心底嬉しそうに笑う。

「うん、これからもいっぱい食べてね」

「ああ、うん」

 その笑顔を見ながらごろんと横になり、まだ二日あるんだ、まだ…なんて思って…俺の意識は遠ざかっていったんだ。


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