第12話 バスケットボール

 アンソワープを見かけなかったか若い女性に尋ねてみることにした。

「人を探しているんですけど。十六歳ぐらいの……ウェーブのかかった金髪のすらっとした女の子みかけませんでしたか? 赤のチェックのシャツと青いジーンズのボーイッシュな感じの」

「公園の広場でバスケットボールしてたわよ」女性は方向を指した。

「ああ、あの広場なら知っている。どうも」

 お礼を言って広場に早足で向かう。


 コンクリート地のバスケットコートで、高校生達がバスケをしていた。少年達に混じって、華奢(きゃしゃ)な少女が背番号三番の赤い前掛けをつけて試合に混じっている。


 長い髪の少女がボールを追う姿は目立ちすぎていた。ボールを追い、走る、器用にボールをパスする。

 真剣な表情、ボールをとられて悔しそうな表情。華麗にボールを操る姿。


 背の高い少年からパスを受け取ると、アンソワープはドリブルしながらゴールに進む。動作が女の子ではない。大胆で機敏で一瞬たりともためらわない足取り。


 慣れた手つきでドリブルをする、ボールをパスしたり、ディフェンスにまわったり。


 センターライン近くで、大柄の少年からボールをゲットすると、ディフェンスを素早く避けながら、ゴールへと突進する。


 行く手を遮る少年達を巧みにまいて、ゴールの下に入り込み、弾みをつけてジャンプ。

 そして、両手でボールを掴み、ボールをリングの上から叩き込む。


 ギャラリーからの驚きの声援が上がった。

「すげえ! ダンクシュート決めた」


 オフェンス側の少年達が一斉に歓声をあげる。

 アンソワープは、軽々と地面に着地すると、長い髪をかきあげ、ピースサインをギャラリーに送る。


 横で見ていた黒人の子供がつぶやいた。

「ほんとに女の子なのか? すげえ!」

「あの子は、サイボーグだよ」

「ふーん、男みたいな派手なプレーするんだね」

「脳は男の子なんだ」

 エンゾはジョーという少年をもっと知ってみたいと初めて思った。


「時間終了!」リーダー格の高校生が試合終了と叫んだ。


 試合が終って、少年達と笑いあっているアンソワープ。

 こんな生き生きとした表情なんて今までみたことがなかった。


「サイバネの人とバスケしたの初めてだ。さっきのダンク決まってたよ。俺達、ここのコートでよくバスケしてるから、暇あったらまた試合に加わってくれよな」

 背の高いリーダー格の少年が笑いながら言う。

 アンソワープはニコニコ笑いながら、少年達に手を振って「おう! じゃあ、またな」と言う。


 ギャラリーの中にエンゾの姿を発見すると、笑顔は消え真剣な面持ちになった。


 そして、怒ったように、つかつかと歩み寄る。

「なんだよ。おっさん、バスケの試合見ていたの?」


 おじさんという年でもないのに、そう呼ばれてエンゾはガッカリした。

 でも、愛想笑いしながら話題をすすめる。

「ジョー君、おじさんはないよ。まだ僕は29歳だよ。エンゾって呼んでくれないかな」


 夕日を背景にして、アンソワープはエンゾをまっすぐ見つめ、とても人懐っこい微笑みを顔一面に浮かべる。

 左手を挙げてエンゾに向けた。

 エンゾは意味が分からないが、真似をして左手をあげる。

 アンソワープは、エンゾの手の平を軽くパンっと叩いた。

「よろしく。やっと俺のこと本当の名前で呼んでくれるようになったんだな」


 この瞬間が初めて、エンゾがジョーという少年に出会った日だった。





   




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