第7話  ピザ

 車の助手席にアンソワープを座らせると、シートベルトをかける。

 服は患者用のネグリジェだけど、家に帰ったら自分の服でも着てもらおう。


 家に着くと、車椅子に乗せた彼女を静かに家に招き入れる。

 おかえり、アンソワープ。


 彼女は殺風景なダイニングをまじまじと見回す。テレビをつけると前に連れて行く。


 冷凍庫からピザを取り出しオーブンに入れる。瞬時に調理が完了し、皿に乗せ、立ったまま食べはじめた。

 

「俺もピザ食いたい」アンソワープは、お願いするような口調で言う。


 彼女は食べ物を口にできない。脳の生命維持用の栄養補給カプセルを一日2回経口摂取するだけだ。機体は充電、またはソーラーパワーで動く仕組みになっていた。

「君は普通のもの食べられないんだよ。人工身体だからね」

「そ、そんな。飢えて死んじまう」

「後でカプセルあげるから大丈夫だよ」

 薄い緑の瞳が少し哀しそう。

 エンゾの顔とピザをうらめしそうに交互見つめる。時に口をモグモグしたり。すごく可愛い。

 彼女を見つめながら、三角にカットしたピザを手に掴んで自分の口に運ぶ。彼女もつられて、あーんと口を大きく開く。がぶりとピザに噛み付くと、がっかりした顔で正面に向きなおしてテレビを見だした。


「俺、じいちゃんのとこに帰りたい」

 彼女の口から漏れた言葉で、エンゾは食事の手を止めた。

 そうだ、大切な事を忘れていた。あの少年の家族のこと。

「でも、オカマになってしまったって、じいちゃん知ったら悲しむだろうな」

 ぼそぼそと話し出す。


「家族には僕が連絡を取るよ。詳しく教えてくれないかな?」

「親は俺が小さい時、交通事故で死んだ。その後、じいちゃんが面倒みてくれた。じいちゃんは職人で、サイボーグの顔とか腕とか足を作って俺のこと養ってくれていたんだ。半年前まで普通に暮らしていたんだ。あんな奴等がじいちゃんに目をつけなければ、ずっとあの生活は続いていたんだ」

「あんな奴って?」さらに話を聞きだそうと質問をした。

「また別の時に話す」寂しそうな口調だった。

 大きな二重の目がエンゾをじっと見つめるが、薄緑の瞳はやはり見るだけの機能を行うために設計されていて、感情は浮ばないようだった。金色の長い睫からは涙はこぼれない。

 


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