第6話 遺体

 彼女を車椅子に乗せると地下の貯蔵冷凍庫まで運ぶ。

 厚手の手袋をはめると鉄の重い扉を開ける。

 霜に覆われたガラスケースに入った体を彼女の目の前にかざした。零下三百度で冷凍保存された四肢のないトルソー、頭部切開された痕は生々しく、誰かによって切断された胸部の傷口も赤黒くグロテスクだった。


 アンソワープはそれを見ると同時に身体を曲げて口を抑えた。生身の人間だったら吐いていたかもしれないが、機械の身体では胃に吐くモノもない。

 すぐに遺体を冷凍庫に戻した。

「ショックだったかい? どうも、殆どの身体のパーツは盗られて売られてしまったらしいんだよ」彼女の背中を優しく撫ぜてあげる。


 ウェーブのかかった金髪の間から聞こえてきた声はまるで悪魔のささやき声のようだった。

「あのデブ!  俺の身体をバラバラにしやがって。ただじゃすまねーぞ! ぶっ殺す」

「デブって?」

「ギルダタウンのミノクの野郎だ。奴がやったに違いねえ」


 ギルダタウンとは東部のダウンタウンで、あらゆる犯罪が行われている地域だった。普通の市民は怖がって足を踏み入れない無法地帯である。

「君はギルダタウンに住民だったのかい?」

「違う。隣のアルトンに住んでいた。ところで、俺は歩けるようになるのか? 足がもつれてうまく歩けないみたいだ。もしかして手術が失敗したんじゃないかって心配なんだけど」


 少女の顔に暗い影がよぎる。

 親指を少しくわえ心配のそうに考え込む少女の姿にエンゾは胸がときめく。アンソワープには命がある。昨日まで動かない人形だったアンソワープに魂が宿った。

「リハビリするれば、一、二週間で歩けるようになるよ。どうやら様態は安定しているみたいだね。僕の家に来てゆっくりリハビリしようね」

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