第5話 ジョー

 声は澄んだ優しい声だったが、言葉遣いが乱暴だった。


「僕はエンゾ。工学脳外科医で君の手術をしたものだよ。手術したばかりなんだから安静にしていなさい」

「俺はジョー。あれ? なんか俺の声変じゃないか? オカマっぽいぞ」

 アンソワープは首をかしげる。

「なにがあったかあとで説明するから寝てなさい。精神状態が安定するまで安静です」

「うるせー。なんか身体の具合も変だな。げげげ。手足、生身じゃねーぞ。サイボーグになってやがる。もしかして俺、死にそうになったとかで、サイボーグにされちまったの?」

 彼女は手足を見つめて唇をわなわなさせる。

「おい! 鏡見せろ! 顔見てみたい」

 壁にかけてあった鏡を渡すと乱暴にひったくり、彼女は鏡を覗き込む。瞬きも忘れて、鏡の姿を見つめ、長い事沈黙していた。


 五分ぐらい経っただろうかガシャーンという大きな音が沈黙を破った。

 突然、彼女は鏡を白い壁にたたきつけた。

 ガラスも枠もいとも簡単に粉砕してバラバラと床に散乱した。

「てめーか? 俺のことオカマに改造したのは? なんだこれは? もとに戻せ!」

 錯乱状態に陥るかと心配したが、意外と冷静でただ怒っているだけだった。一通りの動作や言語発声を見ている限り、手術は成功したようだ。


 彼女はベッドから降りようと身を乗り出すがずるずるとシーツと供に床に滑り落ちた。立ち上がろうとするが、なかなか脚まで指令が伝達できず、上体しか起こせない。

「だから安静にしていなさいと」

「うるさい! 俺の身体はどうした?」


「保存してあるから、安心して」かがみ込んで、アンソワープの顔をやさしく覗き込み語り掛ける。


 機械の冷たい右手がエンゾの首にかかる。そして力を込めはじめる。

 喉を締め付ける、圧迫されて息が吸えない。絞殺するつもりか?

「今すぐ見せろ」彼女は睨み付け、命令する。

 手を振って分ったと動作で了解した。

 開放すると、胸を軽く突いて、早くしろと催促する。


 咳をしながら立ち上がると、廊下にある車椅子を取りに行く。

 なんて腕力だ。まるで、プロレスラーみたいな腕力だ。

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