第4話 目覚め
脳移植が完了したのは午前四時。オペ総時間は五時間。
空いている病室にアンソワープを運んだ後、魂の抜け殻になった少年の身体を超低温窒素冷却し冷凍保管庫にしまった。
エンゾはアンソワープの寝ているベッドの縁に座り、顔を覗き込む。
── はやく目を覚ましてよ。手術で疲れたから寝るよ。また会おうね。
短い仮眠を取るつもりだったが、いつのまにか深い眠りへと落ちていった。
夕方、父親に起こされた。
「あのサイボーグはなんなんだ? 深夜、突然やってきて手術室まで勝手につかって」
「あれは、その……」
「エンゾには、おじいちゃんのようなマッドサイエンティストにはなって欲しくはないんだ。あのサイボーグは誰なんだ?」
「道で拾ったんです。壊れていたから修理して」
でまかせの嘘。
「拾ったなら警察に届けなければならないな」父親は口髭を触わりながら言った。
「スクラップ場で拾ったので廃棄してあったのと同じです」慌てふためいて弁解する。
「相変わらず嘘が下手だな。誰にも言わないから全ての事を話してごらん」
優しい口調に負けて、処分されるはずだった少年の命を救ったことを打ち明けた。
医者として命を助けることは使命ではあるが、ときには患者の事を考慮して倫理に反すことをするのも医者の勤めだと、やわらかだが厳しく説教された。
あ、勤務先の病院無断欠勤してしまった。でもそんなことよりも、大切なことだったんだ。
説教の後、エンゾはアンソワープの様態を見に行く。
ベッドに寝ている人形は窓から差し込む夕暮れのオレンジに白い頬を染められている。
「白いネグリジェは患者用のものだけど、君が着るとまるでドレスのようだ」
短いネグリジェからでた合金とレジンの脚は光を反射してとても奇麗だ。
あまりの美しさに心を奪われ、口にキスしようとした。
突然、彼女の目が開き、額にガツンと軽い頭つき。
軽いといっても、合成皮膚の下は鉄なのでまるでハンマーで叩かれたように強烈だった。
エンゾはズキズキ痛む額を押さえて立ち上がる。
アンソワープはベッドから上体を起して、何か話そうと口を開いた。
かの愛らしいぷっくらとした唇から発せられた一言は。
「おい、てめえ誰だ?」
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