第3話 手術
郊外の緑の多い高級住宅街に着く。もう深夜なのでしんと静まり返っていた。ファミリー向けの一軒家が並んでいたが独身のエンゾは一人で住んでいる。
アンソワープの機体をハーネスを使って車に運び込む。総重量百キロもあるので、体を鍛えていないエンゾには素手で持ち上げるのは無理だった。
車で父親の経営する病院に向かう。入院患者は十人しか収容できない病院だが外科手術の設備は整っている。
病院の入口で出迎えてくれたのは夜勤ナースのタオ。
「ぼっちゃん、これは?」
昔から、この病院で働いているタオはエンゾの元ナニーでもあった。
「犯罪に巻き込まれて瀕死の状態にある少年だよ。これから緊急脳移植手術を行う」
「でも院長の許可は?」
「父の許可は取ってある。オペの補佐をしてくれないか?」
タオはいぶかしげな顔で見るが、いいでしょうと手助けしてくれた。
初老のナースと腕力ない青年は、やっとのことで機体とガラス瓶をストレッチャーに載せる。
アンソワープへの脳移植は以前見ていたので、できるとエンゾは確信していた。
白衣に着替え、マスクをし、手を洗い、手術台の横に器具をならべる。少年の身体を生命保存液から取り出し維持装置に繋げた。
タオが剃刀で頭髪を削ぎはじめている。
一番大きな器具は頭部切開SAWだった。これを扱うのは手慣れたものだが、肉と骨の焼けるあの臭いだけは何年経っても慣れない。軽い吐き気をもよおす。
ラテックスの手袋をはめ、紫の消毒液を含んだ脱脂綿で頭部を丁寧に滅菌する。
頭部開切SAWのパワーを入れると、手術室に甲高い回転音が不気味に反響する。
躊躇することもなく、少年の頭部地肌にブレードを沈めた。
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