第9話 声帯変換

 案外、素直なので変だと思ったが、彼女を自室のコンピューターの前に連れていった。


 首の後部のハッチを開け、コードでコンピューターに接続し「声帯変換」プログラムを起動する。

 ペンを彼女の右手に握らせ、声の変え方を教える。

 音域、低音、高音のカーソルを上下させながら発声し、決まったらコンプリートボタンを押せばいい。

「あー」、「いー」と少しソプラノの優しい声で、音程を変えながらテストしはじめた。案外すぐに元の声らしき音程みつけ音声変換プログラムを完了させた。


「ありがとう、先生」

 ハキハキした少年の声に変わっていた。

「あ、約束の……」

 そう言い終わらないうちに、アンソワープはエンゾの首に優しく腕を回す。

(キスしてくれるのか……。)


 エンゾが目を閉じた瞬間、思いっきりヘッドロックを掛けられた


「この変態! 誰がてめえなんかにキスなんてするかぁ。俺のことアンソワープなんて名前で呼ぶのやめやがれ! 俺の名前はジョーだ。分かったか。ジョーって呼べよ!」肘で首をぎりぎり締め付ける。


 ── 万力みたいな鋼鉄の腕で首を絞められ殺されるのか。どこの誰だか分からない少年の脳を移植するんじゃなかった。大失敗だった。無念。

 

 意識が落ちる前にどんと床に突き飛ばされた。

「家に帰る。車で送れ」彼は車椅子から立ち上がると、偉そうな口調でエンゾに命令する。

 断れば、また首を絞められると思い、冷や汗もので『彼』を家に送ることにした。

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