底の住人(太陽の逆位置)

 普段明るく挨拶を交わしてくれる太陽の正位置さんには、相対する存在がある。


「ようこそ、地底へ。歓迎しますわ主様」

「……いつ来ても変な感じ。お邪魔するね」


 地底人こと『太陽』の逆位置さんは、地底と呼ばれる世界の住人だ。主な意味は『ネガティブ思考・悪いことばかり考える・不信感』など。地上にはめったに顔を出さず、どこまで行っても深い深い闇の底にある、地底で暮らしている。


「さぁこちらへおかけください。」

「ありがとう……ここに来ると、朝なのか夜なのかわからなくなるね」


 地底には光が全く入らない。彼女の力を借りて何とか暗闇の中でも物や人を認識出来るが、それでも分かりにくい。


「人は本当に光に左右されるのですね、まるでひまわりみたい。」

「どうして?」

「ひまわりは対応の向きに合わせて角度を変えるからです。光が沈んだら落ち込んだかのように頭を垂れて、光が出たら顔を上げる……ふふふ、愉快な光景ですね。」

「なるほど……まぁ特性というか、光がないと不安になるってところは似てるかもしれないね。」


 人間のことをひまわりにたとえるのはきっと彼女くらいだろうなと思いつつ、出されたお茶に口をつける。正直何を口にしているのか分からないので、もしかするとゲテモノかもしれないという想いは消えないが、悪い味はしないのは確かである。


「それにしても、光がないとほんのり寒いんだね……」

「これが基本の気温ですから、そこまで寒いと感じたことはありませんね。この世界からは出ませんし……」

「そっか、一度も出たことないんだったよね……」


 逆位置さんは、この地底から出たことがない。それは出られないのではなく、出る必要を感じないからなのだという。

 彼女にとって、地底の生活がすべてであり、私達人間の世界やその他の世界に求めるものなど、何もないからだという。

 地底では特に決まったルールはないようだが、それ故に自我の強いものが多いようで、人に判断を任せたりするような事は絶対にしないのだという。

 故に彼女もすべての事柄を自分で定め、自分の手の届く範囲内で責任を取る。そうして生きている。

 その生き方は、私にとってはとても羨ましくもあり、同時に寂しさを感じる。


「何だか寂しいね、お互い干渉しないってところはいいと思うけど……」

「あら、主様はそのほうが良いのでは? 誰よりも一人の時間を大切にされているではありませんか。」


 逆位置さんの言う通り、私は一人の時間が好きだ。一人でゆっくり考え事をしたり、本を読んだり……一人だからこそ味わえる時間が好きだ。

 そう考えるとこの地底の世界は一人になるにはうってつけではある。然し、一人で収集できることは少ない。どうしても限界がある。

 そんな時、周りに人がいれば収集できる事柄も増えるし、対話を行うことで視野も広がっていく。それがいい刺激になっていくと思っている。


「そうだね、でもせめてここに住むなら貴女とは話していたいかな。」


 そういう私に彼女は不思議そうな顔をするのだった。

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