無邪気な抵抗(力の逆位置)

「あ、主!」

「こんにちは、今日も元気だね。」

「ねぇ主、これ買って!」

「ちょっと待って何そのリスト……これ全部買ってくれって?」


 出会い頭に端から端までびっしり書き込まれた紙を渡され、さも当然のようにねだってくる彼女の名は『力』の逆位置。主な意味は『爆発・自己中心・駄々をこねる』などで、この通りかなりのわがままである。正位置さん同様に容姿は幼女そのものなので、子供の我儘だと思えばまだ納得がいくのだが、それにしてはかなりの我儘である。


「うん、これ全部欲しいの!」

「前に別のやつあげたばっかりじゃない、前のはどうしたの?」

「前のはもういいの、今は新しいやつがいいの! ねぇ買って買って!」


 彼女は新しい物好きなところがあり、流行物や新作を毎回チェックしている。その中で気に入ったものをこのようにリスト化し、私に渡してねだってくる。そのスピードは凄まじいもので、ほんの一日で新しいものを欲しがるのだ。その度に何とか断るのだが、諦めが悪い彼女はあの手この手でねだってくる。


「だから無理だってば……申し訳ないけど私にはとても……」

「主にしか頼めないんだもん……あたしの性格とか、ちゃんと理解してくれてるし、主にだから話せるんだもん……」

「力の逆位置さん……」

「あたしだってね、我慢しようと思ってるの。でも今まで我慢してきていいことなんてひとつもなかった。我慢する方が偉いとか言われ続けてきたけど、実際は失ってばかりだったもん……」


 力の逆位置さんは過去に嫌な経験をしたようで、繰り返したくないという想いから我慢をすることをやめたのだという。

 確かに彼女の言う通り、全てを我慢したからといっていいという訳では無い。自分の意思を持つこと、それに対して行動を起こすことも重要だ。現に彼女は自分の願望を私に吐き出し、全てではないものの望みが叶っている。

 然しながら、何事も加減が重要。節制の正位置さんの言葉を借りるならば、メリハリが大切なのだ。ここは我慢する、ここは貫くときちんと決めることで、周りとの関係を保ちつつ自分の願望を叶えられるのではないかと思う。


「そっか、あなたは今まで辛い思いをしてきたんだね。これはその裏返しだって事は理解してるし、責めたい訳では無い。その経験をしているからこそ、気持ちが分かるからこそ出来ることがあるんじゃないかな」

「あたしに、出来ること?」

「うん。どこまでなら自分が我慢出来るのかとか、ここだけは我慢してはいけないとか……人によって加減具合は様々だとは思うけど、少しずつでもいいから整理出来るんじゃないかな。

それにさ、今までのものだってまだ使い道があると思うし、そこから新しいものが見出せるかもしれないじゃない?」

「新しいものを……あたしが? それ凄くいいかも!誰も持っていないようなものを、あたしが作れるかもしれないってことでしょう? 分かった、やってみる!」


 少し趣旨が違う気もするが、彼女がやる気になったのならいいかと、今後の彼女の成長ぶりを楽しみにしておこうと思うのだった。


 後日、新しいものを作る為の材料として、別のものをねだられたのは言うまでもない。

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