死を望まぬ死神(死神の逆位置)
「ねぇ主、死ぬってどういう事だと思う~?」
「……え?」
その質問は、突然問われた。夕ご飯何にする? と聞かれているかのような、日常に溢れる質問のようにさえ感じるほどに、軽く。
彼の名は『死神』の逆位置。私は死神くんと呼んでいる。正位置とは兄弟関係で、主な意味は『捨てきれない想い・煮え切らない態度・過去にこだわる』など。
普段は黒いフード付きマントに身を包み、顔を隠しているしー君に対し、死神くんはフードを被らず無邪気な笑顔を見せてくれる。そんな死神くんは、笑顔のままに私に問う。対する私は、質問の主旨が掴めず困惑していた。
「主にとって、死ぬってどういう事だと思うって聞いてるの!」
「いや質問の意味は分かるんだけど、唐突だったから……難しいな……うーん……」
少し冷静になって考えてみた。人は生きている間に何度死を考えるのだろうか。軽い気持ちで考えることもあれば、本気で考え実行しようとする場合もあるだろう。『生と死は紙一重』と、何処かの哲学者が言っていたような気もする。
「やっぱり、解放……かな? 体という縛りが解けて、在り来りだけど魂だけが残って浮遊するっていうイメージ?」
「……ふぅん、そうなんだ」
「え、何……?何かその反応怖いんだけど……」
「やっぱりそういうイメージ、付きやすいよねー……」
彼は死を司る存在、故に人とは別の解釈を持ち合わせているのだろう。無論彼もあくまでカード上の死神である為、本来の概念とは異なるとは思うが。
「そういう死神くんはどういう事だと思うの?」
「ボク? うーんボクはねぇ……奪われる事だと思うんだ♪」
先程と差ほど変わらない無邪気な笑顔を浮かべ、彼は言った。しかしその表情とは裏腹に、言葉はかなり重い。奪われると表現した彼は、そのまま言葉を続ける。
「ボクはねぇ……生きるって権利だと思っているんだ。この世に生まれる権利が突然渡されて、戸惑いながらその権利を使って生きていく。生きていくうちに様々なことを経験し、嫌な気持ちになることもあれば、楽しい気持ちになることもある。
これからどんなことを経験できるんだろうって思った矢先、突然その権利を奪われる……見てきた景色も、感じられた温もりや冷たさも、感覚がなくなって消えていく……後には何も残らない。そんな感じに思うなぁ♪」
相変わらず顔は笑っている。だが、それを語る彼の言葉は鋭く冷たい刃のようだ。途端に死が怖いものなのだと実感させられた。結局人は最後までなにかに追われて消えていくものなのだろうか。
「だからさ、いつ奪われるか分からないって思いながら生きていけばいいんだよ。そうすれば、時間がどれだけ大事なものなのか分かるでしょ? 明日奪われるかもしれない……そう思いながら一日を刻んでいって欲しいな♪」
これはきっと、彼なりに長生きして欲しいと伝えたいのだと私は思った。彼には人の死を止める力はない、だからこうして伝える事しか出来ないのだ。そう考えると、ずっと笑顔でいる彼の強さは並大抵のものではないと感じた。
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