破壊衝動(魔術師の逆位置)
「お~お~荒れてるなぁ……何があったんだ?」
「っ……! 来ないで……危ないから……」
ストレスも限界が来ると爆発をする、その爆発の方法は様々だが、どうやら私の場合はかなり危険な爆発方法になってしまっているようだ。
脅威を感じるほどに強い嫌悪感と怒りが頂点に達し、手に持つものすべてに何の思い入れもなくなってしまった、ある日の午後。その元凶となったものはここにはないのに、何かをしないと落ち着かない……手に取るもの全てを壁に投げつけ、怒りを鎮めようとしていた時、彼に声をかけられた。
「はっ、何をやってんのかと思いきや。そんな生ぬるいもん破壊して何が楽しい?」
「わかってるよそんなこと……」
「な、おれがいいもん用意してやるよ。丁度やろうと思ってたんだ、一緒に楽しもうぜ?」
そう怪しく笑うのは、『魔術師』の逆位置さん。主な意味は『破壊・暴走・自己嫌悪』などで、何でも破壊してしまう要注意人物である。
然し、彼の破壊は良い結果をもたらすためのものである。例えば建前、邪魔な壁をぶち壊してくれるおかげで本音を相手にぶつけることができた。
その結果、その相手とは更に親睦が深まり、今では親友と呼べる存在になっている。そんな彼からの誘いに、促されるままについていく。そこは彼の部屋だった。
彼には相対する存在である、魔術師の正位置さん(以下マジシャン)がいた。二人は共同生活をしているらしく、何時も一緒に過ごしているという。
「おや、珍しいね君が主を連れてくるだなんて……」
「今日に関しては目的が一緒だからなぁ……な?」
「うん……」
「……そういうことか、分かったよ。僕も協力するから、二人でスッキリしておいで」
マジシャンはそう言い、ぱちんと指を鳴らした。すると場面が切り替わり、マジックショーが開かれそうな会場が現れた。
『レディース&ジェントルマン! 今宵も始まりますのは、クラッシュショー! 心に入ったごみを吐き出して~本能のままにレッツクラッシュ!』
アナウンスの声が不気味に笑う、不思議と不快感はなかった。何時の間に仮面をつけていた魔術師の逆位置さんが、私の背中に触れた。
その瞬間、私の口から黒い塊のようなものが大量に出てきた。不思議と苦しくはなかったが、出てきたもののおぞましさとその量に震えた。
「なに……これっ……!」
「お前の中に溜まっていたゴミだよ、すげぇ量だな」
「ゴミ……?」
「お前が溜めに溜めたごみの山だ、そっちではストレスって呼ばれてるらしいな。どうせ破壊すんなら、元凶からだろ」
彼はそういうと、どこからかハンマーのようなものを取り出し、振り上げた。鈍い音が響き渡り、私から出たごみの一部が粉々になった。すると、その粉々になったところから、うねうねと気味の悪いものが出てきた。
「ひぃっ……!」
「何ビビってんだ、折角破壊できるチャンスなんだぜ? お前も好きな武器持ってぶっ壊せよ」
驚く私に構わず、彼は一心にハンマーを振り下ろす。その度に黒い生き物が飛び出してくる。すると今度はその黒い生き物に向かってハンマーを振り下ろし、つぶしていく。
「これ……なんなの……?」
「こいつはごみに住む虫だ、自分たちの住処を守ろうとお前の中に滞在し続け、常にお前の中にこのごみの存在を意識させやがる。たまにあるだろ、忘れようとしても思い出してしまうこと……その元凶がこいつらってわけだ」
そう言われて、心当たりのある出来事がたくさんあることに気が付いた。いつもそうだ、忘れてしまいたいと思っても、ふとした時に蒸し返ってくる……それが不快で仕方がなかった。
「お、やっとやる気になったみたいだな。やろうぜ~?」
「……武器、貸して」
私は貸してもらった短刀を手に取り、ちょろちょろと逃げ惑う虫に突き刺した。しゅわしゅわと消滅していく感覚が、楽しい。その様子を横目で見た彼も、ハンマーを振り下ろし、ケタケタと笑いながら破壊していく。今の姿を客観的にみれば、明らかにアブナイ人に見えるだろう。
「そっち行ったぜ~」
「ありがとう、仕留める!」
繰り返していくうちに、段々自分の中にあったもやもやした気持ちが晴れていくのが分かった。それと同時に山のようにあったごみも、だんだんなくなっていく。最後のごみと虫を片付け終えたとき、体の力が抜け、その場にへたり込んだ。
「どうだ、衝動に任せて破壊すんのもたまには悪くないだろ?」
仮面を外し、ニタニタと笑いながら囁く彼の言葉に頷き、あたりを見回す。さっきまでいたマジックショーのような部屋ではなく、真っ白い空間になっていた。
「ここは……?」
「お前の心の中の状態だ、この部屋パンパンにごみがあったんだぜ?」
「跡形もない……」
「この部屋に何を入れるかはお前の自由だが、さっきみたくごみを溜めるとまた虫が湧く……」
「そう考えるとぞっとする……」
「まぁ、また溜まった時には破壊すりゃあいい。またあの爽快感、味わいたいだろ?」
彼の言葉に、素直にうなずく。あんな感覚初めてだったし、とても爽快だった。
だけど、あそこまでは溜めたくはないなと思う私であった。
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