手の中いっぱいの嘘(法王の逆位置)
「……」
同じ名前でも、向きが違うとこうも変わるのだろうか。カード達と過ごす時間が長くなっていくにつれて、その疑問はどんどん大きくなっていっている。
愚者や魔術師にしてもそうだが、正位置と比べるとかなりの豹変ぶりだ。そして、この男も例外ではない。
「ね~ぇ~……僕の話ちゃんと聞いてくれてる~?」
彼の名は『法王』の逆位置、正位置とは兄弟らしく、彼は正位置を『兄さん』と呼んでいる。
主な意味は『ペテン師・騙し・偽り』で、兄と違って非常によくしゃべる、非常に。いや異常というべきだろうか、異常なまでによくしゃべるのだ。
「はいはい聞いてるよ。で、何の話だっけ?」
「聞いてないじゃないか~……ひどいなぁ。折角僕の貴重な体験談を話してるっていうのにさー……」
「どうせ噓なんでしょ? 貴方の話って全部噓じゃない……聞く意味ないじゃん」
そう、彼はおしゃべりなのだが、彼の話す話は全て嘘なのである。どれだけ真剣な口調で話をしていても、最後には『まぁ噓だけどね♪』といい、噓であったことが発覚する。毎回こんな調子であるため、いい加減慣れてしまったのだ。
「噓じゃないよー! 今回は本当、ねぇ聞くだけ聞いてよー!」
それでも彼の話には、耳を傾けてしまう。その理由は、たとえ噓だとわかっていても、それが面白いと感じるからだ。彼の噓には人を傷つける噓がない、どれも人を面白おかしく笑わせる噓なのだ。だからこそ余計に聞きたくなってしまうのかもしれない。
「はぁ……もう分かったよ~……今日はどんな噓を話してくれるの?」
こうしてまた、私は彼の噓に引き寄せられる。
楽しくて面白い、彼だけがつける噓の話に……
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