砦の番人(運命の輪の逆位置)

 運命の輪の正位置さんには、相対する存在として逆位置さんがいる。彼女も同様に言葉を話すことが出来ないので、会話は全て筆記である。


「こんにちは、運命の輪の逆位置さん」

『こんにちは主様』


 正位置さんと比べると、逆位置さんは何処か暗い表情なのが特徴的で、何時も羅針盤のようなものを持っている。彼女は何時もこれを見つめて何かをやっているようだが、今まで詳細は聞いたことがなかった。


「それって何……?」

『本日の運命の動きを感知するものです、主様の世界ではルーレットと呼ばれているもののようなものですね』


 ルーレットと例えた彼女が見せてくれたそれは、確かに形状こそは羅針盤だが、真ん中に馴染みのあるルーレットが付いている。カジノでよく見かけるルーレットを更に細かくしたようなものだった。


「へー……逆位置さんは何時もこれを見ているんだ。なんだか複雑そうな造りだね……」

『運命を読み解くのは意外と簡単なんです。私は人の心の方が複雑な造りだと思います』

「確かに人の心は難しいね……自分でも分からなくなったりするし、他人の事になるとなおさらだ」

『運命はこのように、ある程度の形があるのです。そしてその形になった経緯が背景にあり、要因となったものが必ずあります』


 逆位置さん曰く、運命の形は背景にある経緯と要因が変わることで変化するものらしい。運命は変えられないと、言葉を耳にするが、それはその背景と要因をきちんと理解していないから。変えるために何が必要かを、見ようとしていないからなんだという。


「そっか……変えられないものってそうそうないんだよね。昔は出来なかった事が、今はできるように変わっていたり……その逆も。運命ってその変わったあとの形を示しているのであって、それが最終形態であるかどうかは誰にも分からないんだ」

『捉え方や見る角度によって変わるところもあるでしょうし、一概には言えません。然し、強い覚悟を持ち要因に立ち向かおうとするのであれば、運命はそれに応えます。そうして形を変えていくのが、本当の運命なのではないかと私は思います』


 逆位置さんはそう言って悲しそうな顔をする。彼女の主な意味は『不況・不幸・停滞』で、あまり良い意味として捉えられる事がないからか、占いの結果で出ようものなら嬉しい顔はされない。例え今が不況だったとしても、変えようとすれば運命はそれに応えて回り出す。駒をどう回すかはその人次第なのだから。


「素敵な考えだと思う。私ね、占いで貴女が出た時は現状を見直す時期を示してるんだなって解釈してるんだ。停滞しているってことは、そこになにかやり残した事があるからなのかなとか、思いとどまってしまう原因があるからなのかなって思うの。それを忘れたまま進んでも、もやもやが残るだけでスッキリと進めないから、それと向き合う時間をくれているんだろうな~って思う」


 とどまりすぎるのも良くはない、然し止まった事で見えるものがあるのもまた事実だ。彼女は今しか見ることができないものや、置いて行って欲しくないものを見つけてもらう為に、警告してくれているんだろう。言わば、最後の砦となる場所を護ってくれているのだろう。私の言葉に、彼女の目から一筋の涙が流れ落ちた。

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