第4話 エヘッ! 4

「やって来ました! 魔界だよ!」

 おみっちゃんは魔界の魔女の国にやって来た。

「聞け! 魔女! そして魔女っ子たち!」

 ここは魔女の国。ユババ校長が演説を始める。

「今の魔界は勇者が魔王を倒してから混沌の内戦時代を迎えている! このままでよいのか? 良い訳がない! 魔界は平和を取り戻さなければいけないのだ!」

 もっともらしいユババ校長の演説。

「我が魔女の国に、あの伝説の歌姫がいたのだ! これは我々、魔女が魔界を統一しろという邪神様のお告げである! 正に魔界から戦争を無くし、平和な魔界を我々魔女が新しい魔界を作るのだ!」

 高鳴るユババ校長。

「おお! ユババ! 万歳! 万歳! 万々歳!」

 魔女たちはユババ校長の演説に感化される。

「魔女の国は周辺諸国に宣戦布告する! 我々には伝説の歌姫の御加護があるのだから!」

 こうしてユババ校長の演説は終わった。

「ユババ! 万歳! 万歳! 万々歳!」

 ユババ校長の演説は魔女たちの心に突き刺さった。


「いらっしゃいませ! お茶とお団子はいかがですか! はい! どうぞ! どうぞ! お茶とお団子3人前ですね! ありがとうございます!」

 ユババ校長の演説など知らずにおみっちゃんは茶店で一生懸命に働いていた。

「いつかお金が貯まったら江戸に行って歌姫になるんだ!」

 おみっちゃんの夢は江戸で歌姫になることです。

「それにしても今日はお客さんが多いな? 何かあったのかな?」

 茶店の大行列は閻魔大王の元まで続いていた。

「あんたが原因だよ。あんたが。」

 女将さんはおみっちゃんが伝説の歌姫にされてしまったのが原因であるという。

「はい! 伝説の歌姫のお茶とお団子ですよ! 早いよ! 安いよ! うまいよ!」

 正に牛丼の様な呼び込みであった。

「そうか。それでお客さんが多かったのか。照れますね。エヘッ!」

 いつも明るく笑顔で元気に前向きなエヘ幽霊。

「おみっちゃん。私たちも戦に行かないといけないの。」

 魔女っ子たちも戦闘に駆り出される。

「そうなんだ。寂しくなりますね。」

 別れを悲しむおみっちゃん。

「何を言っているんだい? おみっちゃん。あんたも戦場に行くんだよ。」

 女将さんのキラーパス。

「はい!? 女将さんは私に戦場で散ってこいって言うんですか!?」

 予想外の展開に驚くおみっちゃん。

「あんた既に死んでいるだろ。」

 おみっちゃんは幽霊である。

「あ、そうでした。私は幽霊でしす。エヘッ!」

 開き直るエヘ幽霊。


「それにしてもあれだね。他国に攻め込むって言ったって、他国や魔界の勢力図が分からないと全体が把握できないね。」

 女将さんの素朴な疑問。

「とりあえず隣の国に攻め込むしかないですよね。エヘッ!」

 可愛い子ぶるエヘ幽霊。

「もったいない。魔女なんだから時空間魔法で遠い国でも攻めれる設定にすればいいのに。」

 素晴らしい女将さんのアイデア。

「そうなってくると魔女っ子3人を育てるというのは人数が多いんでしょうか?」

 おみっちゃんは編成を考える。

「いいや。この子たちは、今から良いも悪いも経験して立派な魔女になっていくんだよ。だから魔女っ子っていうポジションは必要だね。」

 女将さんは魔女見習いの魔女っ子を制定した。

「必要なのは魔女だ。魔女の中でも1人でも敵国を侵略できそうな強い魔女だよ。」

 魔女っ子ではなく、魔女待望論。

「もしも魔女がいないのであれば、私が1人で魔界を統一してきますよ。エヘッ!」

 余裕で魔界を統一できそうなエヘ幽霊。

「確かにあんたに魔界がひれ伏すよ。」

 女将さんもおみっちゃんの実力はお墨付きである。

「やったー! 褒められた! エヘッ!」

 大喜びのエヘ幽霊。

「誰も褒めてない!」

 完全否定する女将さん。


「私に任せなさい!」

 そこに一人の魔女が現れた。

「あなたは!? ハマイオニ先輩!」

 魔女っ子たちの前に現れたのは魔女の先輩のハマイオニ。

「これから私一人で隣国のスライム国を滅ぼしにいくわ!」

 ハマイオニには毅然たる魔女の姿があった。

「カッコイイ!」

 おみっちゃんも本物の魔女に心を奪われる。

「ハマイオニ先輩! 私たちもついていっていいですか?」

 魔女っ子たちはハマイオニ先輩の活躍する姿が見たいのであった。

「いいわよ。その代わり危なくなっても助けないから、自分の身は自分で守るのよ。」

 ハマイオニ先輩から一緒に行く許可をもらった。

「やったー! これで私たちも初陣ね! ういうい!」

 魔女っ子たちは初めての戦争に胸がときめく。

「みんな! がんばってね!」

 おみっちゃんは魔女っ子たちを笑顔で応援する。

「おまえも行くんだよ!」

 女将さんの蹴りがおみっちゃんに炸裂する。

「ギャアアアアアアー!? 痛い! 暴力反対! お尻が二つに割れたらどうするんですか?」

 お怒りのおみっちゃん。

「もうとっくに割れてるよ。」

 お尻は二つに割れている。

「そうでした。エヘッ!」

 照れ笑いも可愛いエヘ幽霊。


「せっかくだから、これを持っていきな。」

 女将さんが何かを餞別にくれるみたいだ。

「これは!? あの伝説の桃二郎が持っていたという黍団子!?」

 おみちゃんは黍団子を手に入れた。

「それを敵に食べさせれば味方にすることができるかもしれないよ。」

 女将さんは黍団子の紹介をする。

「美味しい! お代わりください!」

 黍団子を全部食べてしまうおみっちゃん。

「おまえが食うな!」

 キレる女将さん。

「仕方がない。ちょっと隣国を滅ぼしてきますか。」

 逃げるように旅立とうとするおみっちゃん。

「あれ? 誰もいない。」

 ハマイオニ先輩と魔女っ子たちはいなかった。

「あんたが黍団子を食べている間に行っちゃったよ。」

 置いていかれたおみっちゃん。

「そ、そんな!? 私を置いていかないで! 地縛霊になっちゃうよ!」

 おみっちゃんは魔女っ子たちの後を追った。

「やれやれ。手間のかかる看板娘だこと。はあ・・・・・・。」

 女将さんは一息つくことにした。


「ここが隣の国のスライム国か。」

 魔女っ子たちは隣国のスライム国を攻めにやって来た。

「ハマイオニ先輩。まずは何からやるんですか?」

 魔女っ子たちはワクワクしている。

「そうね。極大魔法でも落として、一撃でスライム国を壊滅させてやるわ!」

 ハマイオニ先輩は必殺の一撃を食らわせるつもりである。

「カッコイイ!」

「さすがハマイオニ先輩!」

「やっちゃってください!」

 魔女っ子たちは偉大な先輩に大興奮。

「任せなさい! 私の地獄の魔法を思い知らせてやるわ!」

 気合十分のハマイオニ先輩。

「そうはさせるか!」

 その時、どこからか大きな声がする。

「ギャアアアアアアー!」

 光の閃光がハマイオニ先輩の胸を貫く。

「ハマイオニ先輩!?」

 その光景に魔女っ子たちは絶句した。

「スライムの国は誰にも侵略させないぞ!」

 一匹のスライムが魔女っ子たちの元へやってくる。

「何者だ!? おまえは!?」

 魔女っ子たちは尋ねてみた。

「私の名前はスライム・ドラゴン!」

 確かにスライムがドラゴンの様な姿で背中に羽も生えていた。

「スライムドラゴンだと!?」

 ビックリな魔女っ子たち。

「そうだ! 我々スライムの国は他国に侵略されないように魔界最強のドラゴン国の子分になったのだ!」

 スライムはスネ夫くんだった。

「なんだって!?」

 またビックリする魔女っ子たち。

「ドラゴンの傘下に入った記念にドラゴンの姿になる力が与えられたのだ! ワッハッハー!」

 これがスライムがドラゴン化できた理由である。

「なんていうこと!?」

「これではスライムを攻撃したらドラゴンの怒りを買ってしまう!?」

「どうしたらいいの!?」

 困ってしまう魔女っ子たち。

「どうだ? 手も足も出まい。ここがおまえたちの墓場となるのだ!」

 スライム・ドラゴンが魔女っ子たちに襲い掛かる。

「キャアアアアアアー!」

 絶体絶命な魔女っ子たち。

「お~い! みんな!」

 そこに遅刻してきたおみっちゃんが現れる。

「おみっちゃん!?」

「出た! エヘ幽霊!」

「まさに神だ! 救世主よ!」

 こうしておみっちゃんは魔界でも救世主として崇められる。

「増援? そんなもの何人増えても一緒だ! 死ね!」

 ドラゴン・スライムはおみっちゃんにも襲い掛かる。

「おみっちゃん! あなたの歌が聞きたいわ!」

 魔女っ子たちはおみっちゃんに歌を歌わせようとする。

「ええー!? 私の歌が聞きたい!? 照れるな。エヘッ!」

 しかし歌わないエヘ幽霊。

「早く歌って! おみっちゃん!」

 必死な魔女っ子たち。

「そう言われても。ポッポに演歌、最近、ロックにも流行っているんだよね。化粧に時間がかかるやつ。エヘッ!」

 おみっちゃんはビジュアル系ロックにハマっていた。

「何でもいいから早く歌え! 除霊するぞ! エヘ幽霊!」

 遂に魔女っ子たちが切れた。

「はい! 歌います! 1番! おみっちゃん! ガガガの歌!」

 怖いので歌うことにしたおみっちゃん。

「耳栓用意!」

 魔女っ子たちは耳栓をする。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 おみちゃんは極度の音痴でデスボイスの持ち主であった。

「なんだ!? 魔女の新兵器か!? 私の知らない魔法なのか!?」

 スライム・ドラゴンはおみっちゃんの歌声に心が震える。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 更におみっちゃんは気持ち良く歌を歌い続ける。

「ダメだ!? もうもたない!? 体が粉々に砕けそうだ!? ギャアアアアアアー!」

 スライム・ドラゴンは体内爆発を起こして粉々に壊れていった。

「ご清聴ありがとうございました! ああ~気持ち良かった! エヘッ!」

 おみちゃんは歌を歌い終えた満足感でいっぱいである。

「ありがとう! おみちゃん!」

「正に伝説の歌姫だ! 魔界の救世主だ!」

「良かったよ! 最高だ!」

 魔女っ子たちはおみっちゃんを大絶賛。

「それではリクエストに応えてもう一曲歌わせてもらいます。エヘッ!」

 ファンのリクエストに答えようとするファンサービスのできるエヘ幽霊。

「やめいー!」

 必死におみっちゃんを止める魔女っ子たち。

「ゲホッ! 苦しい!? やめて!?」

 あの世を少し見たおみっちゃん。


「大丈夫ですか!? ハマイオニ先輩!?」

 ハマイオニ先輩は瀕死の重傷だった。

「・・・・・・私は気絶していたのか?」

 幸いにもハマイオニ先輩は気絶していたのでおみっちゃんの歌は聞いていない。

「やりましたよ! スライム国を制圧しましたよ!」

 やったのはおみっちゃんです。

「そうか。よくやった。おまえたちは立派な魔女っ子だ。」

 後輩を褒めるハマイオニ先輩。

「やったー! ハマイオニ先輩に褒められた!」

 大喜びの魔女っ子たち。

「私は疲れた眠らせてもらうよ。」

 ハマイオニ先輩は瞳を閉じた。

「ハマイオニ先輩!?」

「大変だ!? 早く病院に運ばなくっちゃ!」

「急げ! 救急車!」

 魔女っ子たちはハマイオニ先輩を担いで病院を目指す。

「それではアンコールにお応えして、もう一度歌を歌いたいと思います。」

 化粧を終えておみっちゃんがやって来た。

「あれ? 誰もいない。」

 魔女っ子たちの姿はどこにもなかった。

「いいや。スライムさんたちに聞いてもらおう。エヘッ!」

 エヘ幽霊の夢は江戸で歌姫になることです。


「何!? スライムの国が皆殺しにあっただと!?」

 ここは魔界最強のドラゴン国。

「はい! 敵は魔女一人だったそうです! 一瞬でスライムを皆殺しにしたようです!」

 ドラゴンの手下の報告である。

「いったいどんな強力な魔法を使ったというのだ!?」

 いいえ。魔法ではなく歌を歌っただけです。

「周辺国に至急連絡を! 魔女の国が攻めて来るかもしれないから注意しろと!」

 ドラゴンの国のドラゴン・ジェネラル。

「場合によっては私が出るしかないかもしれないな。」

 最強のドラゴンと最悪のエヘ幽霊が戦う時が近づいている。


「女将さん! スライムのお団子なんかどうですか?」

 新商品の開発に余念がないおみっちゃん。

「いいね。それいただき。青いお団子なんか見たことがないからね。きっと儲かるよ! 銭の臭いがする! イヒッ!」

 女将さんは悪い顔をしている。

「それにしてもスライムの国には碌なお宝がないね。漁るのも時間の無駄だね。」

 敗戦国のお城や兵士の亡骸を漁る女将さんであった。

「次の国が楽しみですね。エヘッ!」

 可愛く笑って見せるエヘ幽霊。

「どうせ、ゴブリンかナメクジの国なのは分かっているんだからね。あんまり期待できないね。」

 さすが年の功の女将さんであった。

「なんなら私が歌いましょうか?」

 歌が歌いたくて仕方がないおみっちゃん。

「やめとくれ! 私はまだ死にたくないからね!」

 仲の良い師弟であった。

「エヘッ!」

 エヘ幽霊の冒険はつづく。

 つづく。

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