第9話 エヘッ! 9

「やって来ました! 私の魔界!」

 おみっちゃんは魔界の全てを滅ぼし女魔王として君臨した。

「魔界の統治は私に任せな。魔界全域に茶店のフランチャイズの店舗を出店。ロイヤリティーを私に払う代わりに自分の国の統治権を上げる。もしもロイヤリティーを払わないと、謀反、反逆の意志がありということで、おみっちゃんのコンサートを開き皆殺しにする。そこに新しい魔物に茶店を開かせる。ガッポリ儲かるし完璧だね! イヒッ!」

 女将さんは今まで茶店の経営で培った経験を魔界の統治に活用している。

「私の歌って断罪に使えるのね。エヘッ!」

 自分の歌が最終兵器であることを理解しているエヘ幽霊。

「いいだろう? あんたは自分が魔界の伝説の歌姫だってことを証明できたんだから。」

 おみっちゃんは魔界の伝説の歌姫だった。

「いいえ! よくありません! 私の夢は江戸で歌姫になることです!」

 おみっちゃんの志は曲げれない。

「今度は人間界に攻め込む気かい?」

 このノリでいくと天界も邪神もデスボイスで葬ることができてしまいます。

「それもいいですね。いきますか。お江戸に。遂に私の夢が叶うんですね! ワクワク! ワクワク! エヘッ!」

 こうして次は人間を滅ぼすことにしたおみっちゃん。


「それでは人間界を滅ぼすための作戦会議を始めるよ。」

 お馴染みの作戦会議を始める。

「あ!?」

 その時、おみっちゃんは何かに気がついた。

「人間を皆殺しにすると私が歌姫になった時に私の歌を聞く観客がいません。困りました。」

 おみっちゃんは観客の心配をする。

「どっちにしろ、あんたが歌を歌ったら観客は死んじゃうんだけどね。」

 呆れる女将さん。

「私の歌声で召天できることを幸せに思いなさい! エヘッ!」

 絶好調のエヘ幽霊。

「そうだね。戦っても女魔王の座まで手にいれたあんたに叶う敵がいるとも思わないんだけどね。」

 強くなり過ぎたおみっちゃん。

「それほどでも。ちょっと女魔王の剣や女魔王の気だとか邪悪な存在ですからね。エヘッ!」

 自画自賛のエヘ幽霊。

「まあ、私たちなんで人間界の様子でも見ながら、江戸でも目指しますか。」

 なんだかんだで茶店の歌姫1の渋い谷からお江戸を目指すことにした。

「そうですね。面白い物語はこれぐらい主人公を盛らなければできないってことですね。もう私は何でもありです。エヘッ!」

 大分、話が呑み込めてきたエヘ幽霊。

「魔界に何か異変があったら書く茶店のフランチャイズ・オーナーが連絡してくるだろうから大丈夫と。行くかい。人間界に。」

 便利なフランチャイズ・統治制。

「はい。私の素敵な歌を多くな人々に聞いてもらいたいな。エヘッ!」

 こうして動く殺戮スピーカーは人間界に戻るのであった。


「やって来ました! 渋い谷! おお! 我が故郷!」

 おみっちゃんたちは人間界の始まりの地の渋い谷にやって来た。

「とりあえず情報収集のために茶店でも出すかい。おみっちゃん準備しておくれ。」

「は~い。」

 茶店の準備をするおみっちゃん。

「あれ? 私は魔界を統一した女魔王なのに、どうして女将さんに歯向かえないんだろう?」

 おみっちゃんの素朴な疑問。

「まあ、いいっか。エヘッ!」

 難しいことは考えられないエヘ幽霊は完全に女将さんに飼いならされている。

「いらっしゃいませ! 美味しい! 美味しい! お茶とお団子の茶店が帰って来ましたよ!」

 いつも明るく笑顔で元気に前向きなエヘ幽霊。

「にしても、誰もお客さんがやってこないね。おかしいね?」

 以前と比べると渋い谷にお客さんが少なかった。

「何かあったんですかね?」

 おみっちゃんも心配する。

「あの、どうして渋い谷に人がいなくなったんですか?」

 おみっちゃんは通行人に尋ねてみた。

「それは盗賊が出るようになってね。以前は盗賊はいなかったんだけどね。」

 治安が悪くなったのでお客さんがいなくなったらしい。

「懐かしいですね。いましたよ。茶店の歌姫1の頃、私はひたすら盗賊にデスボイスをお見舞いしていましたからね。エヘッ!」

 ノスタルジーな気持ちになるエヘ幽霊。

「うちの茶店が移転したから、新しい盗賊が住み着いたんだね。これは私たちにも責任があるね。」

 女将さんは自分たちがいなくなって盗賊退治をする人がいなくなったのが原因だと悟った。

「誰か渋い谷の盗賊を倒してくれませんか?」

 渋い谷の人々は盗賊に困っていた。

「分かったよ。盗賊退治は引き受けた。うちの茶店の看板娘のおみっちゃんが盗賊を退治してくれるよ。」

 女将さんは盗賊退治を引き受けた。

「ええー!? 私ですか!? 女将さんが引き受けたんだから自分で盗賊退治をやってくださいよ!」

 苦情を言うエヘ幽霊。

「まあまあ、困った時はお互い様ってね。おみっちゃんも渋い谷の人々のおかげで冒険ができてるんだから、恩返しをしないといけないよ。里帰りしたあんたの強さを見せつけてやりなよ。」

 女将さんは恩と試し切りをおみっちゃんに提案する。

「そうですね。茶店の看板娘から女魔王になった私の実力をお見せしましょう。エヘッ!」

 緩いだけのエヘ幽霊から強さに自信満々の女魔王のエヘ幽霊。

「いつまでエヘ笑いをしてるんだい。そろそろ主人公の自覚を持ってほしいね。」

 女将さんから注文が入る。

「エヘエヘっ!」

 おみっちゃんが笑っている。

「どうしたんだい?」

 女将さんは不気味がる。

「私はエヘ幽霊ではありません。エヘエヘ星人です。エヘエヘッ!」

 新キャラ、エヘエヘ星人の誕生である。

「どうでもいいから早く盗賊退治に行きな。」

 ノータッチの女将さんは冷たくおみちゃんをあしらう。

「は~い。エヘエヘッ!」

 雑に扱われることにも慣れているエヘエヘ星人。

「まったく、魔界の次は宇宙人相手に銀河戦争かい?」

 おみっちゃんの世界では何でもありである。

「久々の人間界です。暴れ指してもらおうか。エヘッ!」

 女魔王の力を手に入れたエヘ幽霊が盗賊退治に向かう。

「あの・・・・・・あの娘さんは頭は大丈夫ですか?」

 渋い谷の人々はおみっちゃんの脳みそを心配する。

「大丈夫だよ。あんなんでもやる時はやる子なんだ。なんてったってうちの茶店の看板娘だからね。」

 女将さんはおみっちゃんを信頼していた。

「それよりも盗賊を倒したら、謝礼の方をガッポリ頼むよ。ただで盗賊は倒せないからね。イヒッ!」

 ただでは転ばない女将さんであった。


「なんだ? おまえは?」

 渋い谷を支配している盗賊の元におみっちゃんがやって来た。

「私は茶店の看板娘です。良かったら美味しいお茶とお団子を食べに来てくださいね。エヘッ!」

 本題より茶店の宣伝をするよくできたアルバイトのエヘ幽霊。

「可哀そうに。顔は可愛いのに脳みそが空っぽなんだな。」

 おみっちゃんに同情する盗賊さん。

「そうなんです。私の頭はネジが12本外れているんです。エヘッ!」

 素直なエヘ幽霊。

「なんだ? うるさいぞ。」

 そこに盗賊の頭領が現れる。

「シカナウ頭領。おかしな女が現れました。」

 盗賊の見張りが伝える。

「おかしな女?」

 シカナウはおみっちゃんを見つける。

「エヘエヘッ! エヘエヘ星人だ!」

 おみっちゃんはエヘエヘ星人を熱演中。

「こいつは!? キチガイかショウニだ。殺してしまえ。」

 おみっちゃんはやはりおかしなカワイイ女の子にしか見えなかった。

「死ね!」

 盗賊がおみっちゃんを斬りつける。

「ギャアアアアアアー! やられた!」

 おみっちゃんは地面に倒れた。

「野郎ども! 仕事に行くぞ! カツアゲの時間だ!」

 盗賊の職業はカツアゲである。

「おお!」

 なぜかおみっちゃんも手を上げて叫ぶ。

「なに!? おまえは確かに殺したはず!? なぜ生きているんだ!?」

 シカナウは殺したおみっちゃんが生きていることに驚いた。

「お教えしましょう。それは私が既に死んでいるからです。」

「なんだと!?」

「私は幽霊だから殺されても死ねないのだ! エヘッ!」

 幽霊を自慢するエヘ幽霊。

「ふざけるな! 幽霊の分際で! やっちまえ! 野郎ども!」

「おお!」

 盗賊たちがおみっちゃんに襲い掛かる。

「渋い谷は私が守る! 渋い谷の茶店流! 忍術! 女魔王の魔王気!」

 おみっちゃんの周りに女魔王の凄まじい気が発生する。

「なんだ!? この禍々しい邪気は!?」

 盗賊たちは見たこともない邪気に言葉を失う。

「渋い谷の茶店流! 剣術奥義! 女魔王斬り!」

 女魔王の気を宿した剣が盗賊に襲い掛かる。

「ギャアアアアアアー!」

 魔王の気は生き物のように盗賊に襲い掛かる。

「見たか! 魔界を統一した私の剣技を! エヘッ!」

 もう最強で無敵なエヘ幽霊。

「なんなんだ!? おまえは!?」

 シカナウは何が起こっているのか理解が不能。

「私の名前はおみっちゃんです! 夢は江戸で歌姫になることです! エヘッ!」

 いつも明るく笑顔で元気に前向きなエヘ幽霊。

「そんなことは聞いてないぞ!?」

 困惑する盗賊。

「え? 私の歌が聞きたい。分かりました。魔界の魔物たちも滅ぼした私の歌を聞かせてあげましょう。」

 リクエストに応えておみっちゃんは歌を歌う気だ。

「誰もいってないだろうが!?」

 盗賊は苦情を入れる。

「まあまあ。遠慮しないで。あなた! 私の歌がタダで聞けるなんて幸せ者ですよ! エヘッ!」

 今やプラチナ・チケットのエヘ幽霊コンサート・チケット。

「1番! おみっちゃん歌います! 曲は故郷!」

 おみっちゃんが歌を歌い始める。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 おみっちゃんは極度の音痴でデスボイスの持ち主であった。

「ギャアアアアアアー! 耳が壊れる! 何ていう音痴なんだ!?」

 盗賊は耳を塞いでも地獄を耳から聞かされる。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 更におみっちゃんは気持ち良く歌を歌い続ける。

「もうダメだ!? ウギャピー!」

「アベシ!」

「へデブ!」

「ビビデ!」

「バビデ!」

「ブー!」

 おみっちゃんの歌に耐え切れずに体内爆発を起こして盗賊は全滅した。

「ご清聴ありがとうございました。ああ~気持ち良かった! エヘッ!」

 大好きな歌を歌えて大満足なエヘ幽霊。

「あれ? 誰もいない。うん。私の歌が原因だな。エヘッ!」

 細かいことは気にしないエヘ幽霊。

「さあ、帰ってお団子の仕込みでもするかな。エヘッ!」

 こうして渋い谷に平和が戻った。

「そういえば私って救世主だったような。」

 今ではおみっちゃんは3000年は幽霊をやっている設定になったので、いつ自分が救世主だったのか忘れちゃった。エヘッ!

「どっちだろう? 女魔王だけどカワイイエヘ幽霊。それとも女魔王になったらカワイイエヘ幽霊をやめて二重人格の強いエヘエヘ星人。どっちがいいんだろう? 分からんな。」

 詰まっていない脳みそで考えても答えはでない。


「ありがとうございました。おかげで渋い谷は救われました。」

 渋い谷の人々はおみっちゃんの活躍に感謝している。

「どういたしまして。これも慈善事業ですから。エヘッ!」

 無料と思っているエヘ幽霊。

「千両箱が1つ! イヒッ!」

 しかし裏では女将さんは渋い谷の人々から賄賂を受け取っていた。

「ここにも茶店のフランチャイズを出店して自国の領土を守らなければいけませんね。」

 ストラテジー的に。

「そうか。盗賊の退治をお願いにやって来た人にやってもらおう。またその人をキャラクター化すれば領主の武将であるフランチャイズのオーナーもできる。正に一石二鳥だね。イヒッ!」

 さすが女将さん。

「じゃあ、私に依頼してきた人の名前を決めましょう。とりあえず織田信長さんにしておきますか?」

 三国志と歴史上の武将の名前は著作権やキャラクター使用権は関係ないので誰でも使えるはず。

「もっとアリスとかアスナとか、あいうえお順でカワイイ名前でもいいんだよ?」

 女将さんはおみっちゃんのネーミングセンスを疑う。

「いいんです。新しいキャラクターを作るより一般大衆によりよく知られている名前の方が親しみができますからね。エヘッ!」

 意外に計算高いエヘ幽霊。

「私は渋い谷で茶店のオーナーをやっている織田信長なんか見たくはないよ。」

 ゲッソリする女将さん。

「なら秦の始皇帝とか、マリーアントワネットにしましょうか? お茶が無ければ団子を食べればいい。喉が詰まって死ぬだけだから。エヘッ!」

 想像力が豊かなエヘ幽霊。

「もういいよ。次、行ってみよう!」

 つづく。

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