第5話 エヘッ! 5

「やって来ました! スライムの国!」

 おみっちゃんはスライムの国にやって来た。

「今日はお便りをいただきました。」

 ラジオDJの女将さん。

「毎回、パンチやキックで倒して終わりな仮面ライダーとかアンパンマンとか飽きたらどうするんですか? ペンネーム、エヘ幽霊さんからの質問です。」

 懸賞生活とかが好きそうなエヘ幽霊。

「だから戦闘シーンは一瞬で終わるんじゃないか。戦闘シーンにいくまでの物語が重要。人の葛藤や自分と同じ立場の人の共鳴とか。そっちのプチストーリが主だね。分かったかい? エヘ幽霊。」

 女将さんは質問に答える。

「ありがとうございました。エヘッ!」

 正に子供電話相談室レベル。

「そうか。日常でこういう時はこうなりますという気持ちを描いて、それを見た人読んだ人に応援してもらえるようなプチストーリーがいいのか。」

 しかも文字数を少なく描かなくてはいけない。

「私には難しいな。エヘッ!」

 エヘ幽霊は戦いを繰り広げていく度に少し大人になっていく。


「いらっしゃいませ! 美味しいお茶とお団子ですよ! はい! 3名様ですね! 奥のテーブルにどうぞ!」

 イキイキと接客する茶店の看板娘のおみっちゃん。

「あいよ! お茶とお団子ができたよ! さっさと運んでおくれ!」

 茶店の女将さんも一生懸命に働いている。

「おみっちゃん。これから私たちは隣のゴブリン国を攻めに行くんだけど一緒に行かない?」

 魔女っ子たちは万が一の保険のためにおみっちゃんを連れていこうとしていた。

「ごめんなさい。アルバイトが忙しくて行けそうにないの。」

 おみっちゃんは貧乏苦学生なので働かなければいけない。

「そっか。残念だね。」

「でも私たちだけでは不安だわ。」

 魔女っ子たちは何かあった時の不安を強く感じていた。

「私がいるじゃないか!」

 その時、一人の魔女が現れる。

「ギギ先輩!」

 現れたのは魔女のギギ先輩であった。

「私はハマイオニとは違う。私が完膚なきまでゴブリン国を滅ぼしてくれようではないか!」

 ギギ先輩は絶対の自信を持っていた。

「そうね。ギギ先輩がいれば大丈夫よ。」

「よし! ゴブリン国を倒すわよ!」

「じゃあ、行ってくるね。おみっちゃん。バイバイ!」

 魔女っ子たちとギギ先輩は隣のゴブリン国を攻めに旅立った。

「行ってらっしゃい!」

 お見送りするおみっちゃん。

「いいな。暇な人たちは。働かなくてもいいんだもの。エヘッ!」

 苦学生の苦労を知るエヘ幽霊。果たして弱者の共感を得て応援してもらえることがあるのか!?

「エヘ幽霊のあんたのイメージを変えるのって大変だね。」

 女将さんはおみっちゃんに同情する。

「やっぱり成長モノより最初から強いモノが一般大衆にはウケるんですかね?」

 おみっちゃんの素朴な疑問。

「あんたはアンパンマンか仮面ライダーモノだろ。最後に歌を歌ったら買っちゃうんだから。」

 おみっちゃんの茶店の歌姫は同じテンプレートの置き換え型であった。

「そうですね。エヘッ!」

 笑って誤魔化すエヘ幽霊。

「ということは強化できるのは戦闘シーンや歌のシーンではなく、それまでのプチストーリーだね。そこをどう磨いて変えていくかしかないんじゃないかい。」

 女将さんのアドバイス。

「やはり私をゆるキャラ癒し系的な感じから、すごく強くてできる幽霊にバージョンアップしちゃいましょうか?」

 おみっちゃんは強さへの憧れもある。

「アップデートかい? やめときな。強くなりすぎると絶対に勝っちゃうから、虐げられていたり、いじめにあっている一般大衆を爽快に瞬殺していく物語にしかならないよ。」

 女将さんは何でも知っている。

「そんなものですか? 人間の人生って戦いとか、暴力とか、いじめとか、悲しいですね。」

 一般大衆から共鳴されたい痛みの分かる幽霊のおみっちゃん。

「例えば。こうだ。」

 女将さんが実例を見せてくれる。

「助けて! おみっちゃん!」

 そこに魔女っ子のメグが慌ててやって来る。

「メグ!? どうしたの?」

 おみっちゃんも合わせて驚いて対応。

「実はゴブリン国もドラゴン国に魂を売り渡していたの!」

 ゴブリン国も魔界最強のドラゴン国の参加に下っていた。

「なんですって!?」

 おみっちゃんはドラゴンと戦っているのでその強さを知っている。

「ギギ先輩は殉職したわ。」

 ギギ先輩は名誉の戦死。

「悲しい! ギギ先輩! うえ~ん!」

 人が死んだら悲しいおみっちゃん。

「今もサリーとアッコが必死にゴブリン・ドラゴンと戦ってるの! おみっちゃん! 早く助けてあげて!」

 そう言い残すとバタッとメグは息絶えた。

「分かった。後のことは私に任せて。女将さん。私、ゴブリン国に行ってくる。」

 おみっちゃんはゴブリン国に旅立った。

「あの・・・・・・私、まだ生きてます。」

 メグは死んではいなかった。

「そうだ!」

 女将さんは何か良いことを思いついた。

「ドラゴンボールに仙豆ってあったねえ。うちのお団子を食べれば体力が回復できるようになればいいんだよ。」

 女将さんは良い所に気がついた。

「さあ! メグ! うちのお団子をお食べ!」

 女将さんはメグにモグモグとお団子を食べさせた。

「モグモグ。ウッ!? 苦しい!?」

 メグの喉でお団子が詰まった。

「大丈夫かい? お茶もお飲み!」

 女将さんはメグにお茶も飲ませた。

「プハアー! 死ぬかと思った!」

 メグは生き返った。

「さあ! メグ! お茶とお団子を持ってゴブリン国に行っておくれ! 間に合えばサリー、アッコ、ギギ先輩を助けることができるかもしれないよ!」

 女将さんはお茶とお団子を人数分メグに持たせた。

「これがデリバリーってやつですね。」

 女将さんの茶店はお茶とお団子のデリバリーサービスを始めた。

「行ってきます!」

「行ってらっしゃい!」

 メグは再びゴブリン国に旅立った。

「店頭販売、お持ち帰りのテイクアウト、宅配のデリバリー。この三本柱でうちの茶店はガッポリ! イヒッ!」

 女将さんの笑いは止まらない。


「ギャアアアアアアー!」

「助けて! お母さん!」

 ゴブリンの国ではサリーとアッコの悲鳴が聞こえてくる。

「フン。ゴブリン国だと思ってなめてかかってくるからいけないんだ!」

 ゴブリン・ドラゴン。ゴブリン国はドラゴン国から力を借りている。

「これで最後だ! くらえ! ゴブリン・ドラゴン・ファイア!」

 ドラゴンの力を借りればゴブリンも火が吐けるのだ。

「キャアアアアアアー!」

 魔女っ子たちは死を覚悟した。

「サリー! アッコ!」

 そこにおみっちゃんが現れた。

「おみっちゃん! 早く歌を歌って!」

 魔女っ子たちはおみっちゃんにお願いした。

「え!? そんな死にかけた状態でも私の歌が聞きたいなんて、モノ好きね。エヘッ!」

 思わず照れてしまうエヘ幽霊。

「いいから早く歌いなさい!」

 激怒する魔女っ子たち。

「はい! 1番! おみっちゃんが歌います! 曲は南酒場!」

 おみっちゃんがビビって歌い出す。

「耳栓用意!」

 魔女っ子たちが耳栓をする。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 おみちゃんは極度の音痴でデスボイスの持ち主だった。

「ギャアアアアアアー!? 私はこんな所で死ぬのか!?」

 ゴブリン・ドラゴンはおみっちゃんの歌を聞いてあの世を見た。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 更に歌い続けるおみちゃん。

「ゴブリン国に栄光あれー! ギャアアアアアアー!」

 ゴブリン・ドラゴンは粉々に壊れて消えた。

「ご清聴ありがとうございました! ああ~気持ち良かった! エヘッ!」

 歌い終えて満足するエヘ幽霊。

「あれ? 誰もいない。ゴブリンさんはスーパーの特売の卵98円に並びに行っちゃったのかな?」

 そして誰もいなくなった。

「サリー! アッコ! お茶とお団子だよ! 食べて! 飲んで!」

 到着したメグが二人に茶店のお茶とお団子を食べさせる。

「元気が湧いてくるぞ!」

「助かったのね! 私たち!」

 お茶とお団子を食べた魔女っ子たちは生き返った。

「良かったら、もう一曲歌いましょうか?」

 おみっちゃんはリクエストをおねだりしている。

「二度と歌うな!」

 本人だけは自分の歌が危険だと知らない。

「え!? そんなに怒らなくてもいいよねん!?」

 おみっちゃんは目を丸くした。

「さあ、みんなで魔女の国に帰ろう。」

「おお!」

「早くお家に帰って温かいシチューが食べたいね。」

 魔女っ子たちは帰って行った。

「おかしいな? 私の歌のどこがいけなかったんだろう?」

 自問自答しているおみっちゃん。

「試しに歌ってみるか。」

 おみちゃんは歌を歌うことにした。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 相変わらずのおみっちゃんの極度の音痴でデスボイス。

「ギャアアアアアアー!」

 こうしておみっちゃんの歌声を聞かされたスライム国の人々は粉々に消えていった。

「ああ~気持ち良かった! エヘッ!」

 恐るべし! 茶店の歌姫の実力。


「大変です! ゴブリン国が魔女国に滅ぼされました!」

 ここは最強のドラゴン国。

「なんだと!? スライム国に続いて、ゴブリン国まで、やられたというのか!?」

 ドラゴン・ジェネラルは部下の報告に驚く。

「はい! ゴブリン国も強力な魔女の前に皆殺しにされたそうです!」

 正確に犯人はおみっちゃんです。

「いったいどんな強力な魔法を使っているというのだ!?」

 ドラゴン・ジェネラルは見えない魔女に恐怖した。

「次に魔女国が攻めるとしたらナメクジ国か。こうなったら私が出向こうではないか!」

 遂にドラゴン・ジェネラルが動き出す。


「そうか。茶店のお茶とお団子にそんな隠された力があったなんて。」

「九死に一生を得たってことね。」

 魔女っ子たちはお茶とお団子に感謝した。

「そして新作のゴブリンからのゴプリンです!」

 ただのプリンです。

「青いお団子も大ヒットだし、ゴ・プリンも大ヒット間違いなしだね! イヒッ!」

 儲かるので笑いが止まらない女将さん。

「おまけに私のコンサートのチケットもいかがでしょうか?」

 おみっちゃんはおまけをセット販売してくる。

「要りません!」

 殺人コンサートのチケットは却下された。

「おかしいな? 私のチケットは将来プラチナ・チケットになるのに。チッ!」

 舌打ちするおみっちゃんの冒険はつづく。

 つづく。

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