第32話「幼馴染は花火したい②」


 最近、俺の彼女がおかしい。


 付き合って二週間、急に不機嫌になったりしたが実はその理由が案外可愛かったり、昔のように若干アグレッシブさが増してきた気がする。


 つまり、ツンデレヒロイン系彼女ではなく、彼女はただの可愛い女子高生彼女にジョブチェンジしてしまったというわけだ。


 うん、意味が分からないっ!

 テヘペロっ!



「花火ってやっぱりさ、おっきいの打ち上げるわよね?」


「あぁ、打ち上げ花火ならな」


 そうして夕方、俺たち二人は近所のスーパーに花火を買いに来ていた。


 無論、隣にいる四葉は浴衣を着ていたためか、周りの人たちからは「なんできてるんだろ?」といったような視線を向けられていた。まあ、花火大会があるわけでもなく、夏祭りがあるわけでもないのだから致し方ないことだろう。


 そんな俺の苦悩には気付かず、浴衣にスニーカーという風情も糞もない恰好でた花火コーナーでしゃがみ込んでいる四葉がそう言った。


「なにそれ、それじゃあこっちでやる花火は打ち上げたりしないわけ?」


「しない……というかできないな」


「え、なんで!」


 手に取った打ち上げ花火入りのセット袋を抱え込み、身を寄せるように疑問を露わにする彼女。


 すこし考えればいいものを聞く当り……地頭は悪いのかもしれないというか、抜けている所もあるのが窺える。


「なんでも何も、そんなのを空に放てる土地がないだろ、うちには」


「えぇ、良いじゃんそのくらい!」


「よくねえ、最近は近所付き合いが色々あってだなぁ」


 まったく、誰のせいだか。

 人一倍声がでかいのがお前なんだよ……ったく。


「はぁ、面白くないなぁ~~」


「仕方ないだろー、世の中世知辛くなってるんだよ、分かれ」


「分からんし、説教してくる和人とかまじでウザいし」


「うわぁ、浴衣でそんなこと言う女子とかまじないわ」


「っ~~! いいじゃん、別に……」


 浴衣着たいとか言っている割には浴衣たるものを知らんのか、このツンデレ幼馴染は。もっと清楚な言動をしてもらわないと、映えるものも映えない。


「け~~、私の知らない間に世界はつまらなくなったのね~」


「おばさんだな」


「うっさい、おじさん」


「俺はまだ若い、知らない間じゃないしな」


「変な理屈、私と同い年なんだからおばさんだぁ~~」


 酔ってるのかと疑いたくなるが勿論シラフだ。

 そこのところが口ではあーだこーだ言ったが凄く可愛い、舐めたい、いいよね、舐めても?


「なめてもいいか?」


「は?」


 おっと、やばい、思ってることが口から出てきたぞォ……。幼馴染を舐めたいとか、まあ、恋人のあれとかそれを舐めてみたいとか案外普通だと俺は思っているのだが……世間では通用しないらしい。


 何も、四葉の表情がそれのすべてを物語っている。


「……よぉし、早く買うか、ほらほら、それ貸して俺が買うからなぁ~~」


「ちょっと」


「うぐっ――」


 彼女が俺の襟を掴んだ。


「舐めてみたいって言ったかしらね?」


「さて、誰がそんなこと言ったのかしらね、お嬢様ぁ?」


「女子口調マジきもいし、きもっ」


「キモい二段活用とか高難易度だな」


「きもいし、誤魔化すのやめて?」


「……」


 スーパーで浴衣女子に襟掴まれながら問い詰められている俺。周りの人たちの目が徐々に痛くなってくる。


「……か、かえろっか?」


「逃がさないわよ」


 その一言が合図になり、俺は部活で鍛えていた脚力をここぞとばかりで発揮する。セルフレジにて花火を瞬時に買い、出口から一気ダッシュ。浴衣幼馴染に一切手を抜かずに走ることで巻いたかと思ったのも束の間。


 鬼の様な形相で追いかけてきたのは紛れもない、浴衣を着ていた幼馴染。


 高嶺四葉、その人だった。



<あとがき>


 ふぁなお、復活して参りました。もうすぐ待ちに待った二か月の夏休みということで耳噛み小説を完結させ、ガガガ文庫へ送る作品を描き、新作を投稿していきたいと思います。新作はちょっと異質なラブコメかもしれませんが、一気にたくさん投稿して覇権狙っていきたいと思います。



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