第7話「幼馴染は出かけたい」
☆霧島和人☆
「おはよ、変態」
「っく……そ、それはちょっと言いすぎじゃないか……?」
「——あら、そうかしら? 一つ屋根の下で一緒に住む女子の寝込みを襲うなんて最高に変態だと思うのだけれど、どうなのかしらね?」
「ぁ……す、すみません」
あれから一日、俺のあだ名は「変態」になってしまった。別にそういう意味があったとか、変態的なあれがあってだとかじゃないのに。ちょっと、見てしまいたくなったというか、気になったというか……それだけなのに。
しかし、そう思えば思うほどムカついてくる。なんで俺ばっかり、そんな言葉が脳裏に
くそ……確実にはめられた。俺は悪くない。悪いのははめようとした四葉の方だ。こいつ、俺がお腹を触ろうとするまで待ってやがった。そうだ、こいつのせいだ。そこにまんまとハマってしまった俺も俺だがそれにしてもひどい、悔しいぞ。
「待ってたくせに……」
「なに?」
「別に……なんでもないけど……」
そう呟くと彼女はプイッと顔を背けた。少しだけ頬を赤らめていたが気のせいだろうか。あのキス事件以来彼女の照れ顔を見れていないからそろそろ見たいというのが本音だ。優位に立ちたいのにこれじゃあ、俺の立場が低すぎる。
いじられるのが俺じゃあ、攻めることもできない。
それに……
「っそ……早く、ご飯作ってよね」
「は、はい……」
この始末じゃ、幼馴染の命令を聞くだけで——反撃なんてできもしない。
「早く、ね?」
「あいよ……」
そうして俺は「あんたの両親に痴漢されたことを言われたくなければ私の仕事全部して」という命令を素直に実行していくのだった。
☆高嶺四葉☆
誰も、こいつのお触りなんて求めていないわよ。
ほんと、誰が、誰が求めるんだが……和人に触られるのなら出ていったほうがましね。
——いや、それは言いすぎたけれども。
「はぁ……疲れたわね」
「別に何もしてないだろ」
「何? 喧嘩売ってるの?」
「う、売ってません……」
キッチンにてぼそっと呟いた和人の声が聞こえたが私には聞こえていないとでも思っているのだろうか。残念だけど、私は生まれつき耳がいい。聖徳太子……とまではいかなくとも聞き分けることや遠くの声を聞くこともできる。
ほんと、昔から一緒の和人なら知っているはずなのになんでいっつも分からないのだろうか。すごく不思議だ。狙ってるの? いやいや、頭が悪いのにできるわけないし。
——まあ、考えても無駄ね。
「何、しようかしらね……」
それにしても暇だ。
和人にやることすべてやらせるとあいつがどんなに暇だったのかが凄く分かる。幾ら居候していると言ったって、実際今いるのは和人だけなんだし、ご両親が帰ってくるまではこのままでもいいと思う。
「手伝ってよ……」
「自分でやりな」
「っ」
だから、聞こえてるっての。
ここまで来たらわざと言っているのかしら。
「——あ、そうだっ」
ぼーっとソファーで座りながらスマホをいじっているととある広告が流れた。夏休み二日目だし、家にいるのもいいのかもしれないがずっと和人と二人きりの空間にいるのは少し癪だ。そんなところに流れた広告、私の欲しかったものを思い出した。
「服、買いに行かないとっ」
ぼそっと呟くと、キッチンにてびくりと肩を震わせる和人。
「ん……」
「お、俺?」
「当たり前じゃない、他に誰がいるのよ?」
「だ、だよなぁ……」
「あら、察しがいいわね」
「荷物持ちとして来いってことだろ?」
「ええ、ご名答!」
さすが、いつもいつもこき使っているだけあるわね。
「はぁ……ご飯食べてからね」
「なんで和人が指揮ってるのよ、私でしょ?」
「——はいはい、分かりましたよ……」
「返事は一回」
「……はい」
やる気のない返事がリビングに響く。不貞腐れてる。大体、なんで自分がそうなったのか考えてみなさいよ。和人が私のお腹を触ろうとしなければそんなことさせなかったのに……っ。
って! どうして私が改まってるのかしら!
悪いのは私じゃなくて、こいつ!! こいつなの!!
「——っ、んじゃ! ついてくるのね!!」
「はいよ……分かったよ」
「ご飯も早くしてね、私ぺこぺこだから!」
「分かってる!!」
ぴきっと何か破裂したのか大きな声で叫んだ和人に一発チョップをかまし、私はご飯の完成を待ったのだった。
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