プロローグ「10年前の許嫁」
☆高嶺四葉☆
10年前の真夏の昼下がり、私からした許嫁になる約束を16歳になった今でもよく覚えている。
我ながら恥ずかしいけれど、あの頃の私はそのことがすっごく嬉しくて、幸せで——幼少期ながらも女の子している楽しさを味わっていたのかもしれない。
「……よ、よつばはっ——大きくなったら、かずくんのおよめさんになるの!!」
「うんっ! おれも、よつばのおっと? になるよ!」
「じゃあ、これ……やくそくっ」
「わかった!」
「「ゆびきりげんまんっ、うそっついたらはりせんぼんっ、のーますっ、ゆびっきった!」」
いつしか、この約束を実行する日が来るのだろうか——なんて思っている自分を殺したくなるわ。
――――――――――――――――――――――——————————————
「懐かしい天井ね……」
朝目が覚めると私は懐かしい部屋で目を覚ました。時間はいつも通りの6時30分。上出来だろう。しかし、なぜこんなにも早い時間に起きたのか、ちょっとした理由がある。
先日、パパが一年だけアメリカに転勤することになったらしく、実は私もついていく話だったのだが正直行きたくなかったから猛反対した。なんども説得を試みられたが何回も嫌だと言っていると、私を好きなパパは無理強いはできないとこっちに置いてくことにしてくれたのだ。
え、なんで行きたくなかったのかって?
別に理由はないけど、し、強いて言うなら友達とかと離れることが嫌だったからかな……、い、いやっ別にあいつと離れるのが嫌って言うわけじゃないからっ。だ、だってあいつだし、あのいやらしい幼馴染ったらもう、スケベだし、つまんないし、好きじゃないから……。
はぁ、もうそういうこと聞くのは今後とも一切禁止! こっちで出来た友達と離れたくなかっただけよ、はい、おしまい!
「ご飯、作ろっか」
そうして、私はキッチンへ向かった。
冷蔵庫を覗くと入っていたのは昨日の鍋の残りと……卵か。そうね、今日は雑炊と玉子焼きとかでいいかしら、所詮私とあいつしか食べる人いないしね。だいたい、私があいつに気を使う必要なんてないんだもの。
鍋は容器を入れ替えて、昨日の夜から炊いてあったご飯をそのまま突っ込んで火をつける。ぐつぐつしそうな雰囲気になったら火を止めて蓋を閉じて、完成。その後は玉子焼き、私のは甘めで評判も高いけど、あいつの事考えると腹立つからしおぶっ込んで不味くしよう。
「よしっ、完成! あとは叩き起こして昨日作った弁当持って行くだけねっ」
エプロンを外して、ゆっくりと階段を上る。さすがはあいつの両親も市役所勤務の公務員で収入はあるのか、家は二階建てでかなり広い。昨年一人立ちしたお姉さんの部屋を譲ってもらえたのはそれあってのことだ。感謝している——そう、未だ爆睡しているこいつ以外には……。
「ん……ぁ、ぁあ……」
私が扉を開けると、ちょうど奴が目を覚めたようだ。ぼさぼさの髪にみっともない恰好。かっこよさなんて皆無だ。
「……起きるのおっそ」
そう、奴は幼稚園からの幼馴染、霧島和人だ。名前には見合わない見た目で高校でもパッとしないカッコ悪い奴だ。頭も良くも悪くもなく、幼馴染としては少し心配になるくらいだ。それに、昔のカッコよさも今では皆無、たまに和人に興味を持つクラスの女の子もいるらしいが私には一切分からない。
「——んだよ、言いに来たのはそれだけなのか?」
「無論よっ」
大体、他に何か言うこともないしね。さっさと起きて、ご飯食べてほしいわ。私が溜息をつくと、和人はやれやれと言いながら頭を掻いた。
「ははっ……可愛げのないこと」
「ふんっ、可愛げなんてないわっ。私は可愛くはないし、というかカッコよくなりたいし」
「背も低いのに? 童顔なのに?」
「——せ、背は低くないしっ。それに、童顔じゃない!!」
「へぇ、客観視できないんだなぁ……それはそれはお粗末なことだ」
「う、ううるさいしっ!」
「はいはい、分かったって……」
「もう。そうやって揶揄うならご飯作らないけど?」
「それは辛い、悪かった」
「うわぁ、すぐに謝るとかきもっ」
「黙れ、んなことどうでもいいんだよ……」
「はいはい、下にご飯置いといたから先行ってるわね、直ぐに家出たら殴るからっ」
「——はぁ、あいよ」
はぁ。もう、和人と話すのは少し疲れるわね。それに住まわせてもらっている身で少々立場も弱い。あと……なんか、見つめてこられると照れるし……はぁ!! もう、ウザいったらありゃしないわ! なんで私があいつに振り回されてるのかしらっ。
「さっさと学校行って、忘れよっ!」
しかし、学校に行く途中も思い出される古臭い思い出に苛まれて、友達とのラインも捗らなかった。
<あとがき>
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是非、この二人のイチャイチャ、そして成長を楽しんでいただけると光栄です!
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