もう売られていない菓子

あらためて読み返してみると、①地獄②ぱらいそ③カルミンの並びに語り手の変遷を感じる。三者は常に並立しているが成長と共に割合の変化がある。今はもう売られていないカルミンがキッカケで思い出される数々の地獄がカルミン不在のあとであっても更新される。しかしながら語り手は幸福と語り、それに対しての罪悪は見当たらない。猫は何も語らず側にいて時折「いい声」で鳴く。来訪者はなく、ぱらいそに到達しつつある語り手にとっては清涼剤となりうる象徴さえも過去の遺物であり、現在進行形の正義或いは信条を助長するものでしかない。ここで先述の三者がどれも同一の何かを示している気づきがあり救いは限りなく消え失せる。救いはないがそれでいて噛み締めるように過去を振り返るその様には何故だか割り切ったはずの自分に対する憐憫のようにも聞こえた。