あらためて読み返してみると、①地獄②ぱらいそ③カルミンの並びに語り手の変遷を感じる。三者は常に並立しているが成長と共に割合の変化がある。今はもう売られていないカルミンがキッカケで思い出される数々の地獄がカルミン不在のあとであっても更新される。しかしながら語り手は幸福と語り、それに対しての罪悪は見当たらない。猫は何も語らず側にいて時折「いい声」で鳴く。来訪者はなく、ぱらいそに到達しつつある語り手にとっては清涼剤となりうる象徴さえも過去の遺物であり、現在進行形の正義或いは信条を助長するものでしかない。ここで先述の三者がどれも同一の何かを示している気づきがあり救いは限りなく消え失せる。救いはないがそれでいて噛み締めるように過去を振り返るその様には何故だか割り切ったはずの自分に対する憐憫のようにも聞こえた。
ひとりの女性が、幼少期の家庭の思い出を振り返るお話。
ある種の地獄、出口の見えないどん詰まりを描いた現代ドラマです。いやもう本当にエグくて重くて最高……独白調(ですます体)の文章を通じて伝わってくる、この地獄の手触りが、ゴリゴリとこちらの胃壁を削るかのようです。いや本当、凄まじいものを読まされてしまった……。
とにかく出てくる要素のディティールというか、細かい感覚から胸に切り込んでくる感じが凄まじい。別に私(読者である自分)個人はこういう家庭環境に育ったわけでもないのに、でもその光景が我が事のように想像できてしまう。決して〝こう〟でも〝ここまで〟でもなかった代わりに、ひとつひとつの要素にはなんとなく覚えがあったりする、その地獄のエッセンスの抽出の仕方と伝え方がまったく神業のようでした。揺るぎない説得力とを持った〝細部〟を、これでもかとばかりに積み上げてくるこの感じ。
幕引き、というか第四話が最高に好きです。どことなく穏やかなものを感じる語り口とは裏腹に、明らかにそこが地獄の果てだとわかる、この圧倒的な救いのなさ。なによりそれ(=結局救いのない結末に至るであろうこと)が、最初からうっすら想像できてはいたという点。丁寧なですます体だからこそかえって不安定さが浮き立つかのような、語りの妙でこちらを滅茶苦茶に打ちのめしてくるすごい作品でした。痛烈!