水死体

牧歌性を破壊する事件が起きた。硬質的な機械ポンプに軟体が詰まった。温室が一気に過熱し、試作品の半分がやられた。小柳社長はうら若き水死体に胸を痛めた。歳は十代半ばであろうか。救急隊員が電撃で蘇生を試みている。

「ルフレは無事なの?」

「女の子より花なのね」

「他人ですし…」

頃菜は生き延びた鉢植えを乱暴に並べる。

「貴女たち、もう大丈夫」

社長の傍で聞こえよがしにねぎらう。花弁が弱弱しく揺れた。

「貴女だけに心を開くのね」

笑子はそれが疎ましい。すぐ刑事が聴取を開始する。

「社員同士の諍いや脅迫とか?」

退職者や取引先関係者と遺体に接点はない。むしろ笑子にとって寝耳に水だ。

医学の発達は素晴らしく、否定する間に少女が息を吹き返した。


「あまり覚えていません」

スクール水着の名札から大出由美子と判明した、その少女はポンプで溺れた理由を説明できずにいた。

「ずいぶんクラシックな格好をしてるのね」

女性刑事は由美子の服装から懐古主義者の関与を疑った。なつやすみ…忌まわしい言葉だ。刑事は小柳達と同じ世代だ。感染症のせいで行事も風物詩も奪われた。遠隔授業で器械体操。それが現代の義務教育だ。学販衣料やスポーツ用具メーカーはとうに滅びた。学校指定の水着なんてアダルトVRの小道具だ。

「学校から飛んできたんです。父が危篤って、それで」

由美子が農作業中に溺れた供述と発見現場がつながらない。

「事件性はなく、事故とみます」

警察は捜査を打ち切り、小柳も穏便を望んだため、由美子に医療入院措置が取られた。しかし、頃菜が強固に身柄の引き取りを主張した。

「この子は母親に捨てられたんです。何なら養子にします」

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