伊織琴音
「いけ好かない子だわ」
群青色の日輪がオウム返しした。「ことねもそう思う?」
伊織が問うとアバターが青から橙に変色した。量子人格は求道者の友だ。地下の主演算機は莫大な排熱で農園を潤している。結露でハウスに雨が降る。その計算量は競合チームの激突で生まれる。伊織は端末を分身のように可愛がり、孤独と闘いぬいた末に群青色の新種を得た。ことねが示した戦略は引き算だ。既存の遺伝子から塩基配列を削減し潜在能力を引き出す方法で色彩の鎮静効果を臨床試験段階まで進めた。マラン―仏語で海を意味する新種は観る者に深い安らぎと癒しを施す。吸い込まれるような紺碧。それは圧倒的な鎮静と落ち着きで荒涼を薙ぎ払い、心の器を拡大する。何より見ていて飽きないばかりか、内なる声が人生訓をくれるのだ。頃菜の向日葵に打ち勝つ自信すら貰った。対話する花より傾聴する花を購買層は欲しがる。「女性心理の核心を突く設計ですよ」
ことねの計算通り、品評会で引っ張りだこだろう。伊織は「いい子ね」と日輪を撫でた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます