不穏分子

単純明快な思想信条で世界が争っている。

あの冬から夏にかけて未曽有の病毒が人々の価値観を更新した。突然の変化に人々は戸惑い、抵抗した。病毒と共存し多少の不便を我慢するか、感染症を無視して旧来を継続するかだ。影響は深刻かつ多岐に渡り、対立概念が戦端を開いた。順応出来ない者は懐古主義者と名乗り、武力で現状打破を試みている。「母の謂いつけが正しかった」

由美子は日本史のデジタル教科書に涙を落した。

「解放空間が平和とは限らないわ」

頃菜は里親として何が出来るか考えた。ルフレをこの子の【完璧な】話相手に仕上げねば。

「お話ししていいかしら」

由美子は養母を退け、勉強部屋に籠った。その隙にことねの端末を起動する。

「由美子ちゃん、可愛いわね」

AIは娘を気に入っており、一肌脱いでくれるという。

「Rウイルスの転写酵素は微妙なの」

頃菜が釘をさすと「わかってる」と快い返事。品評会は陽気なお祭りになるだろう。

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