マラン
「あの子、ゾンビよ」
ことねは頃菜の里子をそう蔑んだ。そうね、と詩織は生返事。原子間力顕微鏡に集中している。ゲノム編集は神経を尖らせる作業だ。レトロウイルスを用いる方法はそれ自体の突然変異が危険視され、廃れた。彼女は分子線で直にゲノムを剪定する。気温変化の感受性などマランに無用だ。青は彩を捨てた色。
「社長が由美子を放置するなら私にも考えがある」
詩織はペンタブにさらさらと化学式を描いた。「これって…」ことねが絶句する。
「そう、賢者酵素」
「あたし、庇いきれない!」
「バレても平気よ。会場で鉢は隣り合わせ。どっちの香りかわからない」
詩織は飄々と屋内循環モデルをことねに打ち込んだ。三密を過剰に意識した空調だ。ルフレが醸し出すゴージャス感をマランの香が阻んだと誰が断定できよう。「でもあたしの演算ログは頃菜に筒抜けよ。共有環境なんだもの」
「あの子も同じ貉よ」
詩織はライバルの不正を暴いて見せた。禁忌のレトロウイルスを無断使用している。
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