幻日の遊撃隊

「ミドルデッキで負傷者二名」

途切れない爆風、銃弾を掻い潜って衛生兵が走る。しかし白衣に脳漿が散った。「曳火攻撃、まだか?」

屍を踏み越えてから准看護婦が指揮を継ぐ。遮蔽を迂回して女子兵が集まった。

「黄桜隊の榎並一等准尉だ。各自所属を名乗れ」

「扶養砲術隊の初等陸士、須崎史奈であります」

新兵は合流予定の隊に警報を持参した。装甲車両は奇襲に遭い全滅。扶養の三名が残った。榴弾による掃討は期待できない。

「厳しいわね。懐古主義者は切羽詰まってるの?」

顔をしかめる榎並に悲壮感はない。夏休みなどという敗北主義に拘る連中より巣穴の蟻が勝っている。ミドルデッキは幻日の遊撃で陥落寸前だが予断を許さない、という須崎の報告も追い風になる。

「命がけで守りたい過去って何でしょう」

須崎が問うた瞬間、肉片と化した。撤収撤収と黄桜隊が散開する。しかし出処不明の銃弾が彼女達の胸に血を咲かす。

「狙撃兵、どこにいる?」

榎並は史奈の胸からタグを千切った。今しがたの惨状を余さず記録し、懐古主義者どもに拡散する為だ。「過去はお荷物、人生は手放すものなの」



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