ルフレ

この子達はルフレっていうの。仲良くしてあげてネ。

頃菜は自室に少女を招き入れた。床から天井に至るまで向日葵が一杯の部屋。由美子は2045年のカレンダーが心に刺さった。

「ショックです…」

本人の死亡届が昭和に出されており、無戸籍児のDNAに該当しない。となれば、出自不明の行旅病人扱いになる。広至二十年の世界ではコロナ禍の余波で事務手続きも簡略化が徹底しており、頃菜はあっさり未婚の母になった。

もっとも「守る家族が増えたわ♪」と乗り気だ。


「いいんですか…」

「ルフレが半滅したんだもの」

精神的支柱の必要性を社長が説くが、伊織は気が気でない。懐古主義者は「行動変容」で滅びた風物詩の復活を強固に叫ぶ過激派だ。由美子はその手先だと伊織は恐れている。そしてルフレの出荷は火に油を注ぐ。

小柳農園は閉鎖環境における精神衛生の維持を支援する企業に選ばれ、政府から出資を得ている。ルフレは暗黙の対話を通じて連帯感を育むものだ。問題はない、と社長は援護した。返す刀で伊織の花はどうか。断捨離削減、マイナスばかり主張する。

「だってそうでしょう!幸福って得るより捨てることですよ」

「貴女もそうしたほうがいいかしら?」

そういわれて詩織は黙った。

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