頃菜の夏、HIMAWARIのナツ
水原麻以
なつやすみ
蝉時雨をぬけて軒下に避難すると発泡の喝采が迎えてくれた。麦藁帽子を縁側に投げ、虫かごを転がすとヒグラシがどよめく。弱弱しい怒号は忍び寄る季節の冷気に似た憂鬱をかきたてる。ゆえに住所を永遠の夏に固定したい需要が一定数はある。子供たちはグラスをあおり、1ケースを空にすると冷蔵庫の麦茶に突撃する。きゃあきゃあと姉妹が団子になり、ワンピースの裾がまくれ、濃紺のスクール水着が毛玉をトランジスタラジオに押し当て、弾みでボリウムが回り、東北の強豪校が金属バットを鳴らす頃、入道雲が砂の轍を水たまりに変えるのだ。タバコ殻の伐根作業から小休止に戻った叔母が姉妹を叱りつけ、半ば濡れたシーツの取り込みを命じる。上の子は日に焼けた襟元から乾いた肩紐を覗かせ、それを叔母に咎められる。
「結局、泳ぎに行かなかったのか」と問うと、妹が間髪を入れず糾弾する。
「姉ちゃん、水練をサボった」
それで姉が髪を鷲掴みするのだが、雨はみるみるスコールに変わり、説教が中断するのだ。そんな夏休みの黄金時代。離島はニコチンが香る収穫期を終えた。
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